Nobuyuki Takahashi’s blog

2008年 9月 17日のアーカイブ

馬場駿吉先生

2008年 9月 17日

明日から後期の授業が再開。午前中は100円ショップとホームセンターを廻り、授業に使う素材や道具類を買い集める。業者に頼むよりも断然安いし、低学年の学生は道具の扱いに慣れておらず、まずは安い道具から使わせることにしている。
午後、金山にあるボストン美術館へ。馬場駿吉館長にやさしい美術プロジェクトの評価委員会に入ってもらうようお願いするためだ。「評価委員会」とは、やさしい美術プロジェクトの活動を多層的に捉え、かつ段階的に学生の取組を評価していくために設置している。プロジェクト活動は通常の学内の授業とは異なり、学生の取組み方は様々だ。個人として制作する作品や、院内の特定のテーマや場所に応えていくワーキングチームによる取組、活動の運営を担う仕事などである。常に人々の身体と生命に向き合う医療の現場から取り出される課題は誰かに与えられるものではない。与えられた一つの課題に向き合うということは皆無だ。そうした学生各々の取組を評価するためには学生とともに現場に行き、学生とともに模索し、学生とともに制作する姿勢が不可欠となる。また、それぞれの取組をつぶさに見ていくために、学内外の有識者を招き、多様な専門領域から丁寧に批評、評価に努めなければならない。「評価委員会」は学内に設置したプロジェクト教育研究委員会がコーディネートし、年度末に開催する活動報告会に出席していただき、学生の取組のプレゼンテーションを採点・文章批評をいただく。
ボストン美術館ではモネ展と駒井哲郎展が行われていた。馬場先生にお会いする前に展覧会を観る。モネの作品は幾度となく拝見している。作品鑑賞とはおもしろいものだ。自分の鑑賞体験は常に更新されているので、全く同じ作品を観てもその都度感じること考えることが微妙に違ってくる。
モネの筆致は思いのほか大胆である。でも絵の具の物質感が画面から飛び出してくることはない。筆触のアグレッシブさとは対照的にむしろしっとりと落ち着いた趣だ。今回発見だったのはモネの作品から空気の温度や湿度、例えようのない舌触りのようなものがにおいたち、私の中に入ってきたところだ。しかもその感覚が以前鑑賞したときよりもより鮮明に感じられたのだ。
併設の駒井哲郎展も観る。展示室に入って驚いたのだが、駒井氏の版画作品すべてが馬場駿吉館長のコレクションである。そのコレクションを当美術館学芸員に委ねて企画された展覧会であった。俳人としても著名な馬場先生と駒井氏の交流は深く、単なるコレクターと作家という関係では決してない。馬場先生の詠んだ俳句と駒井氏の版画が交互に展示されていると、まるでお二人が会話しているかのようだった。モネ展、駒井哲郎展とも新鮮な風に触れたような清々しい気持ちになる。
約束の時間。美術館入り口で馬場駿吉館長を待つ。ふんわりとやさしい笑顔の先生。学芸室の一室に通していただく。
活動の経緯、評価委員会の役割、現代GPについてなどを説明する。馬場先生は名市大の耳鼻咽喉科の医師でもあったので、やさしい美術の活動の根幹をよく見抜いていらっしゃる。快く評価委員参加を引き受けていただいた。馬場先生とその他の評価委員のするどい目にさらされ、プロジェクト活動の次なる可能性につないでゆきたい。