Nobuyuki Takahashi’s blog

2009年 3月 22日のアーカイブ

瀬戸内トーク

2009年 3月 22日

シンポジウム会場風景

シンポジウム会場風景

瀬戸内国際芸術祭シンポジウム「瀬戸内トーク」で印象に残ったことを記しておく。飽くまでも私個人のメモによる主観であることをお許し願いたい。
壇上にはモデレーター=進行役に吉本光宏氏、パネリストに香川県知事の真鍋武紀氏、国際芸術祭プロデューサーの福武總一郎氏、国際芸術祭出品作家の青木野枝氏、大竹伸朗氏、高松市長の大西秀人氏、そして国際芸術祭総合ディレクター北川フラム氏。
シンポジウムは会場からの質問や意見を求めない、パネルディスカッション形式で、パネリストの話を可能な限り引き出す趣向となっていた、とは前回のブログで書いた。壇上に、行政サイドの知事と市長、そしてアーティストが並んで座っていること自体がなかなか見られるものではない。この時点で、お互いがしっかりと手を結んでいることが象徴されている。福武プロデューサーと北川ディレクターの努力の賜物であろう。パネラーの発言で特に私が興味をもったことを列挙すると、
青木野枝氏
豊島の「清水」を作品展開の場所に選ぶ。地元住民の信仰と歴史を示すものであり、それを大きく変えていくのではなく、「このままにする」こと、強調すること、再生することを目的としたい。まずは地元住民のインタビューから始めようと思う。越後妻有でも作品の制作とそれに平行して棚田の稲作にも取組んでいる。アーティストが美術館や画廊で作品を発表するのとは違い、アーティストが一緒(所)の社会を生きることを実践したい。
大竹伸朗氏
2年前に福武氏から銭湯の作品を依頼された。島民の人が使う究極の作品。作品は近々に完成予定。島にひとっ風呂、世界の人々が直島へひとっ風呂。
大西秀人市長
高松を見直し、高松を再生する。日本書紀から源平…ここには歴史がある一方で失われていくものも多い。新しいものと古いものが出会う高松を目指したい。工業から脱工業、そしてこれからは文化と環境の時代だ。
北川フラム氏
瀬戸内から世界を変える。歴史的必然。数十億年の水の記憶と出会う、海。妻有トリエンナーレは一カ所に情報を集める都市型の芸術祭に反して200カ所の集落に分散して行なった。一カ所に集めて効率よく見せているものは多くは記号だ。身体と五感を使って巡る豊かさが絶対にあるはずだ。四国には八十八カ所巡りの伝統がある。島々を巡り作品と出会いながら海を知ってほしい。
福武總一郎氏
現代美術には能書きがない、人を主体化するメディアである。文化はすべてをゆるす。文化は混浴をゆるす。都市には失われてしまった、人との出会いがここにはある。たずねると応えてくれる。たずねなくても応えてくれる。マズローの欲求段階説の最上段は「自己実現」と言われているが、それは間違い。正しくは「コミュニティーを創る」だ。
吉本光宏氏
妻有では「作品」を観に行き、「日本」と出会った。海をわたるとき、人は心が洗われる。海の美しさに触れる。GNPならぬGNH(Hはhappiness)が大切。

途中から拝聴したため、真鍋知事のコメントを多くは聞くことはできなかった。
シンポジウム最後のコメントで大西市長は大島のことを取り上げた。大島に住む120名ほどの入所者の方々とやさしい美術プロジェクトが協働する意義について触れられた。決意を持った発言で私も気が引き締まる。
皆さんは口々に「海の明るさ」「海はどこにもつながる」といった海の解放感を語られた。私も大島に通い、自分のなかにある迷いやわだかまる感情を置いて、海を渡っているという感じがしている。共感できる感覚だ。
アーティストとして青木野枝氏のコメントは的を得ていて、とても共感できる言葉だった。アートをつくるのではなく、アートを生きている、そんな実感が言葉にみなぎっていた。

シンポジウム終了後、私が荷物をまとめていると次々と高松市、香川県の職員方がかけよってくれて挨拶を交わす。大島のことを皆さんからたずねられる。ばたばたとお話ししていると、北川フラムさんがかけよってくる。「今日、時間ないので、この1、2週の間に丁寧に大島のことを話しましょう。」とのこと。相変わらずお忙しい。私がいまだ高松市長とお会いしていないと伝えると北川さんはすぐにパネラーのいる控室に通してくれて、大西秀人高松市長とごあいさつ。福武總一郎氏をはじめパネラーの皆さんにも簡単にごあいさつをする。
その後会場を出て、ホワイエで高松市や香川県の職員さんと大島のことを話していると、青木野枝さんから話しかけられる。青木さんも大島にはとても興味を持ったそうだ。「大島はアーティストとして強く心が動かされる、取組んでみたいテーマですね。」とおっしゃる。私からは住民のインタビュー、田植えは私たちのプロジェクトも行なっている。今日のコメントはとても共感した、という感想をお話しする。地元のアートコーディネーターの方からもご意見をいただく。すでに大島でやさしい美術プロジェクトが関わっていることは伝わり始めているというのが実感できる。地元の方々が興味を持ち、こうして話しかけられることがうれしい。

どう?このボリューム

どう?このボリューム

会場を後にうどんを食べにいく。いつも一緒のスタッフ泉がいなくて少し寂しい気もするが。シンポジウムは全部を拝聴できなかったが、来てよかったと思える内容だった。この興奮を伝えたくて、思わず奥さんと、スタッフ平松に電話をする。
世界につながる、生命をつなげる海。大島もまちがいなくその海に、ある。それを忘れずに行きたい。