Nobuyuki Takahashi’s blog

2009年 10月 3日のアーカイブ

大島 けずり

2009年 10月 3日

早朝の波打ち際

早朝の波打ち際

5:30 起床。朝日を見ようとカメラと三脚を担いで東側の浜辺に出る。すると大きな望遠レンズ片手に堤防の影でシャッターチャンスをうかがっている人がいる。入所者の脇林さんだ。少し雲が出ているため朝日が登る瞬間は捉えられない。脇林さんは早々にカメラを持って引き上げる。毎日見ている雲行き、どのような写真が撮れるか、予測ができるのだろうか。軽く挨拶を交わす。
面会人宿泊所に戻ると、泉の靴がない。作品制作のために草花を摘みに行ったのだろう。川島はまだ寝ている。
8:00 朝食。トースターでパンを焼く。
9:00 昨日器部分を作った陶器の高台を作りに行く。
陶芸室にはまだ誰もいない。私たちは昨日制作したものを取り出して来て乾燥の具合を見る。底についている余分な土をけずり、へらで傷をつけてそこにドベを塗り、しっかりと高台を作り付ける。器も彫刻と一緒。地面からの立ち上げ部分の高台は全体感に影響する。しばらくして入所者山本さんがいらっしゃった。相変わらず川島をベタほめ。調子に乗った川島は「陶芸っておもしろいですね。」とのたまう。とんでもない。陶の仕事の中で「つくり」はほんの部分だ。土づくりからつくり、窯入れ、素焼き、施釉、本焼き、窯だし…。どれも大変な作業である。

黙々とけずりの作業

黙々とけずりの作業

私は昨日に加えて、祭祀に使うような造形の器をいくつか制作した。大島のざっくりとした土味に触発されたかたちだ。あっという間にお昼になる。
12:00 3人でサンドイッチを作る。トマトとアボカドとハム、チーズをはさんでほおばる。うまいっ。
13:00 食後は福祉室に行き、第二面会人宿泊所と15寮の鍵を借りる。第二面宿は現在ほとんど使われていない。経年変化が随所に見られるものの、部屋は清潔感があって、まだまだ現役といった趣である。私たちはここをカフェとして活用しようと考えている。綿密に写真で記録に撮り、どのように使って行くかイメージを膨らませる。
14:30 15寮に向かう。住んでいた入所者の方々が亡くなられたり、病棟や不自由者棟などに移り、使われなくなった居住者棟だ。こうした使われなくなった建物は大島ではすぐに取り壊される。私たちはそこに「待った」をかけた格好である。5人の方が暮らしていた15寮は長屋づくりで部屋の間取りはすべて統一されている。荷物がそのまま部屋に残っているので、部屋にあがると生々しい息づかいが強く訴えかけてくる。ここを私たちはギャラリースペースとして活用したいと考えている。「ハンセン病問題に関する基本法」が今年4月から施行され、ハンセン病療養所の有効活用がうたわれているが、大島は離島であるために、流用したり、他の地域と連携することが難しい。役割を見出せないものはすぐに取り壊し廃棄せざるをえない。私たちの提案は離島にある療養所の将来に可能性をひらくかもしれないと期待されている。
さて、取材後は北の山の方に行く。蜘蛛の巣がひどく多い。1mおきにあるといっても過言ではない。輪をかけて蚊にも悩まされる。海を眺めていると、不思議な感覚だ。潮が流れているのが見てとれるのだ。直線的でない川のようにも感じる。小さな無人島がそこかしこにちりばめられていて美しい。山から俯瞰するとまるで神が気まぐれに粘土細工を瀬戸内海に配置したかのようだ。ぐるりと一週すると日は落ちて来ていた。

私が刻んだネギ。見よ、このグラデーション。

私が刻んだネギ。見よ、このグラデーション。

面会人宿泊所にもどり、3人でうどんを作る。ネギをきざんでおき、冷凍麺をゆでる。どんぶりにつけたと同時に卵とネギ、つゆをかけてよくかき混ぜる。お好みで天かすやエビの天ぷらをトッピング。最高にうまいっ。
食後は今日のリサーチ内容とメモをテーブルの上に持ち出して来て、来年の瀬戸内国際芸術祭会期中のビジョンを描いてみる。泉は採集して来た草花で早速制作を始める。
昨日の雨と打って変わって今日は晴天。3人で夜の海を見に行く。東側の海岸に立つと向こう岸に高松の町並みがのぞめる。きらきらと輝く街の灯りは遠いような近いような。まるで向こう岸が異次元のように感じる。海のうねりは実にこわい。寄せては返す波とは異なり、穏やかだけれど、うねりの中に底知れぬ悲しさ、怒りを持っているかのように感じるのだ。ぐいと引っ張り込まれるかのような錯覚をおぼえる。1:00 お風呂のあと就寝。

第二面会人宿泊所

第二面会人宿泊所

15寮。寮のつくりは昔と変わっていないと言う。

15寮。寮のつくりは昔と変わっていないと言う。