Nobuyuki Takahashi’s blog

2009年 11月 27日のアーカイブ

ちよだワークショップ テーマが見える

2009年 11月 27日

スタッフ平松里奈最後の出勤の日。彼女はもうすぐ9ヶ月になる大きなお腹を携えてプロジェクトルームでいつものように働いている。
13:00 発達センターちよだに向けて出発。スタッフの赤塚は朝から材料と道具を準備していた。今日はスタッフ赤塚、高橋、中川、村田と4人のアダルトチームだ。中川は研究室職員、村田は庶務課職員。ふたりともきっちりと普段の仕事をこなし、時間を作ってワークショップの計画から準備、実施まで積極的に参加している。モチベーションの高さの何者でもない。私は久しぶりのちよだ。初めて会うこどもたちもいるし、昨年からこの取組みに参加している子どもたちにも久しぶりに会える。

素材の準備を進めるメンバー

素材の準備を進めるメンバー

13:45 発達センターちよだに着く。まだ通園のこどもたちが廊下を走り回っている。私たちはひとまずトレードマークのピンクのつなぎに着替えて素材の準備を始める。今回のワークショップは様々なテクスチャーの粘土を用いてレリーフを作る試み。粘土にコーヒーやマカロニ、大豆などを混ぜ込んでおく。テクスチャーにはっきりとした感覚がたのしめる工夫を凝らし、バリエーションを豊富にすることで子どもたちの興味をそそるしかけだ。新しい感触が新しい表現の可能性を拓くことを期待してー。
15:00 お母さん方が子どもたちを連れてちよだにやってくる。子どもたちは自然と遊びの体制に入る。学齢に達したデイサービスちよだに参加する子どもたちはほとんどがこの地域に暮らし、このちよだに通園していた。ちよだにくる子どもたちは安心しておもいっきり遊ぶ。リラックスする。それは日々ちよだの職員さんが愛情を持って接してきた証だ。私たちはその日常にちょっとだけ、おじゃましている。
子どもたちといっしょに遊び、お菓子を食べる。ボランティアやパート、ちよだ職員の皆さんはごく自然に子どもたちと触れ合う。のびのびとした空気を作りつつも子どもたちの発達と成長に心を配る姿は私たちには新鮮に映る。意思表示が少ない自閉症の子どもたちが、「欲しい」という意志を示し(手を拳と手のひらをあわせるなどのジェスチャーをする)それに私たちが反応して渡してあげる、といった基本的なコミュニケーションの順序を教えていたり、緊張している子どもはやさしく抱きしめ、リラックスを促す。それだけではない。子どもたちのお母さんの様子も見逃さない職員さんたちは心を配るプロフェッショナルだ。アクションリサーチという言葉があるそうだが、書籍をたどる知識や数値にたよる分析より現場で感じればわかることも多い。私たちは月にたった1日だけれど、その肌合いを感じている。

ペットボトルを押し付けてできたミッキーマウスのかたち

ペットボトルを押し付けてできたミッキーマウスの形

16:00 さて、ワークショップの開始だ。様々な混ぜ物をした粘土を手渡し、いっしょにつくる。子どもたちそれぞれの興味の推移を観察しながら、私たちも楽しく制作する。子どもたちの障害の様態は個々により多様で、興味の範囲もまちまちだ。身体的な障害の場合は粘土を可塑的に扱うことができるかどうかがポイントになるし、自閉症の場合は興味の範囲が一定のものに固執してしまいがちだ。実験的なワークショップによって目覚ましい変化を遂げるということはないかもしれないけれど、きっかけになれば私たちとしてもうれしい。
子どもたちは時間をたっぷりと使って制作。興味が持続するのも重要なことだ。
17:00 子どもたちのお母さんが迎えにくる。ちよだの職員さんが「どんな取組みだったか見ていって下さい。」と声をかける。私たちが設えを含め作ったものも片付けてきれいに並べてしまおうとしていたところだった。未整理で粗雑だけれど、制作したありのままの現状を見てもらい、ほとばしる子どもたちの感性を感じてもらう機会にもなっていると気づかされる。

制作は帰る時間になっても続いた。

制作は帰る時間になっても続いた。

子どもたちの帰りを見送り、片付けを終えてちよだのスタッフとやさしい美術メンバーとで今日のワークショップを振り返る。私からは、やさしい美術プロジェクトのメンバーが毎回入れ代わってしまい、子どもたちが緊張してしまうこと、導入は長くコミュニケーションを積み重ねて来たちよだの職員さんたちに甘えている、ことなどを今後の課題としてあげた。しかしちよだ職員からは「初めて関わる人がいて、緊張することも大事。社会の中で生きていくためには、予測できない事態に自分なりに反応することも必要です。どんどんいろいろな人に関わってもらいたい。」とおっしゃる。ちよだのワークショップを再開してまだ緊張の残る私たちをも解きほぐすやさしい言葉だ。
粘土のまるい塊に3つの大豆をつけた子どもがいた。明らかに顔をイメージした制作で、テーマを元に創作を進めた様子が見られた。これまで絵の具では具体的なイメージを描かなかった子が、素材とその組み合わせによって新たな創作に向かった事になる。そうした微細ではあるけれど次につながる発見、表現の萌芽を大切に育んで行きたい。
18:30 ちよだを出発。大学に戻る車の中で、今日を振り返る。
19:00 プロジェクトルームに戻ると平松里奈と彼女の夫であり+Galleryプロジェクト共同運営者の平松伸之さんがいた。最後の出勤、荷物を引き払うため迎えに来てもらったのだ。ほどなくしてアンケート調査で足助に行っていた泉も帰ってくる。スタッフ全員でスタッフ平松を見送る。
長い間、お疲れさま。それ以上の言葉がみつからないー。

テーマは顔

テーマは顔