Nobuyuki Takahashi’s blog

2010年 4月 25日のアーカイブ

大島 漆喰塗りとよもぎ祭3

2010年 4月 25日

6:00 起床。隣の部屋からは早い時間から準備の音がしている。
今日はよもぎ祭。大島で採れるよもぎを摘み、ケーキやスコーンの食材となるように加工するワークショップだ。昨日野村さんの計らいで甘夏も収穫する予定だ。天気は昨日に続き快晴。雨女はどこに行ったやら。
朝食を済ませ、掃除機や調理器具を持ってカフェ・シヨル(第二面会人宿泊所)に移動する。玄関の引き戸を開け放つと塗り立ての漆喰のにおいが鼻をつく。石灰のにおいは刺激臭とは違ってそれほど不快ではない。今日はあたたかいので午後の試食会でも窓を開けていれば問題なさそうだ。皆てきぱきと掃除、整理整頓をこなしていく。9:15 霊交会(大島のプロテスタントキリスト教会)の鐘が鳴る。私は鐘の音を録音する予定だったが、掃除にかまけて機をのがしてしまった。次回訪問時に録音することにする。
9:30 こえび隊の皆さん6名が桟橋に到着。初めて大島を訪れた方もいるが、何度も大島に来ていただいている方もいる。入所者にとっては一度きりでなく何度か大島に来てくれることがとてもうれしいと聞く。初回は様々な事由でやってくるけれど、2度目からは「大島に行きたい」という意思がはたらく。私たちの取り組み{つながりの家}は多くの方に大島を感じてもらい、大島のことを考えてほしいという願いが込められている。
まず、カフェ・シヨル(第二面会人宿泊所)に行く。昨日漆喰塗りを手伝っていただいたこえび隊の皆さんから感嘆の声があがる。皆さんが帰る前はまだ間仕切り壁が残っていた。開放感のある間取りに変身した第二面会人宿泊所はカフェの雰囲気を想像させる域に達している。
全員で納骨堂と風の舞へ。その後野村さんの畑に行くとちょうど野村さんが蜜柑の木の周りを草払い機で除草していた。大きな甘夏の木は大きな実をつけて重そうな枝を抱えている。野村さんは「亡くなった入所者の畑の木をわしらが育ててるんよ。」とおっしゃる。戦後間もなくは食べるものがなく、自給自足の日々で畑は命をつないだ入所者のアイデンティティーとも言うべきものだ。調理されたこれらの畑の産物をカフェのメニューに加え、芸術祭来場者はそれを味わうことになる。甘夏はすごい勢いで収穫されていく。野村さんの奥さんも様子を見にいらっしゃった。「今日は天気がいいからいいね。」とても大きな段ボール1つでは収まらない。ビニール袋2つにも放り込む。
10:30 私と天野、こえび隊で陶芸に詳しい石川さんの3人で陶芸室に向かう。10:00から工事による停電と事前に聞いていたが、陶芸室は病院の中の施設であるため、電力は止まっていない。入所者自治会会長の山本さんを自治会まで呼びに行き、陶芸室で釉薬についての打ち合わせをする。2つあるうちの1つの釜いっぱいに素焼きを終えた「大島焼」が入っている。窯出しして釉薬の種類別に棚へ置いていく。陶芸室にある釉薬を一通り調べ、カフェでの使用条件や盛りつける料理と考え合わせてどのような器に仕上げるかを検討する。天野は3月に卒業し、やさしい美術プロジェクトの活動に一区切りをつけているが、大島焼の製作に関わり、イニシアティブをとってくれている。こうしていろいろな人の手にかかり取り組みが進められていくことが望ましい。テストピースをもう1つの窯に入れることになり、ミルクピッチャーをサンプルにして釉がけする。
12:30 気がつけばお昼だ。カフェ・シヨル(第二面会人宿泊所)に戻りよもぎの収穫を終えた人々と合流する。窓を開け放ったカフェの空間はなかなか心地よい。什器類や照明が入ればもっと雰囲気が醸し出されるに違いない。想像を膨らませながら昼食。
13:00 収穫したよもぎを湯がき、包丁でみじん切りにする。ダダダダダ… 7〜8人で一斉に刻む包丁の音がカフェはおろか、島内全体に響き渡るようだ。
14:00 「よもぎ祭試食会」招待状をお渡しした入所者の皆さんが少しずつカフェ・シヨルに集まってくる。盲人の方、脚を悪くされた方、義足の方…。皆さん玄関で靴を脱いであがっていただく。不便ではあるけれど、カフェの運営サイドがお手伝いしたり、靴を並べて配慮するなど、私たちができることがたくさんある。この機会にしっかりと認識を深めておきたい。招待状をお渡ししなかった方々も見えて、テーブルの周りは入所者の皆さんで満席になった。よもぎの加工作業を終えたこえび隊の皆さんも加わり賑やかに盛り上がってきた。テーブルには井木と泉が準備してきたよもぎのスコーン、ケーキ、ろっぽうやきが並ぶ。皆さん口々に「おいしい。」とおっしゃる。「若い人の笑い声が大島で聞けるのはほんとにうれしい。」「青松園始まって以来の初めてのことが起きつつある。」とうれしいお言葉を矢継ぎ早にいただく。
私が特にうれしかったのは、普段交流や接点の少ない入所者同士が談笑を楽しんでいたことだ。例えば、脇林さん大野さん。脇林さんは定期的に大島会館に展示しているが、反応がない、と日々嘆いておられたが、試食会の席で居合わせた大野さんが「いつも大島会館の展 示を見とった。脇林さんの写真は視点がすばらしい。あんた、プロだよ。」と大絶賛した。戸惑いを隠せず脇林さんは「技術がだめだから…。」と謙遜すると、 「脇林さんが撮った写真は技術を越えたものがある。」と大野さんは返す。聞くところによると普段、同じ大島で暮らしているとはいえ、このお二人にはほとんど接点がないそうだ。その二人がカ フェ・シヨルで作品批評を論じたのだ。私たちが思い描いているカフェの機能がかんきつ祭、よもぎ祭という助走を経て、実現しつつある、そんな予感が私たちを包んでいた。
入所者の皆さんが帰られ、よもぎ祭の片付けにはいる。こえび隊の皆さんは最終の高松便に乗船。私と天野は職員の大澤さんのご好意で庵治便に乗り、高松まで送ってもらうことになった。1時間余分に大島にいられる。その時間を使って、ギャラリー15(15寮)と文化会館の採寸を行う。寸法を控えておくことで、これから必要になる材料や機材を準備することができる。17:30 庵治便最終のまつかぜに乗船。
庵治港についてからは大澤さんの自家用車に乗せていただき、建築資材から電材まで売っているホームセンターに連れて行ってもらった。特に材木の種類が多く、私たちが求めるもののほとんどがここで揃うだろう。
夜行バスまで時間がある。大澤さんの自宅近くにある居酒屋さんに行くことになった。古き良き昭和の香りぷんぷんのお店。錆びたトタンの波板が懐かしさを演出している。もつ鍋を3人でつつきながら今日のよもぎ祭の話に花が咲く。これでカフェ・シヨル開店までイベントやワークショップはお預けだ。いい助走が踏めたと思う。
21:30 大澤さんに高松駅まで送ってもらう。
22:10 名古屋行きの夜行バスに乗り込む。目が覚めたら名古屋だ。
大島に残った井木、泉、張は明日も漆喰塗りを継続。4人のこえび隊もサポートしてくれるとのこと。いつも協力ありがとうございますー。