Nobuyuki Takahashi’s blog

妻有 ツアー2日目

いつものように皆6:00起きで、朝食の準備、アサガオの水やり、やさしい家オープンのための掃除や機材チェックに追われる。私は朝一番にアサガオの撮影に行く。玄関に植えられたアサガオは満開まではいかないが、紺色と紫色の花を咲かせている。2階の屋上にもアサガオが植えてあるが、こちらの方は咲き始めといったところ。暑くなる屋上でアサガオが育つか心配されたが、職員さんとやさしい美術メンバーの世話でなんとか花をつけた。
さて、ツアー2日目。
9:00にホテルロビーに集合。遅刻するものはいない。幸先よいスタートだ。
9:20 名古屋造形大学の陶芸室職員でアーティストの渡辺泰幸氏の作品「風の音」を鑑賞。国道から路地に入ったところ、集落の外れにある小高い山が作品設置の場所だ。膨大な土鈴が井桁に組んだ木材に鈴なりになっている。山を登って行くと5分で頂上に着く。頂上は広場のようになっていて地面には円形にレンガが敷き詰められ、その周りにも井桁に組まれた木材に土鈴がすき間なく並ぶ。その音色の美しいこと。ワークショップで制作された土鈴のひとつひとつに人の所在を感じる。
10:00 オープンを待ってストームルームを鑑賞。ジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラーの作品である。ノーマークの作品だったが、学生からの強い推薦で今回のルートに組み込んだ。歯医者であった家屋は廃屋であることを隠さない。土壁は地震で大きなヒビが入ったままである。そして2階にあがり一番奥の6畳ほどの部屋に入る。入った瞬間、そこは嵐のただ中にあった。絶妙にコントロールされた部屋の明るさ、雷の慟哭はとても再生されている音とは思えない。窓ガラスが共鳴してびびり音が響く。部屋にはブリキのバケツ。ぽたりぽたりと雨漏りの水がビートを刻む。閃光が走る。外は穏やかな晴れ間だったのに、である。この部屋の中だけがずっと嵐。私たちの日常が劇場なのか、ここだけがリアルな劇場なのか…。
10:45 アントニーゴームリーの「もうひとつの特異点」を鑑賞。ここでこへび隊としてツアーバスを案内する樋口道子さんに会う。汗だくで精力的に案内する樋口さんは私たちのやさしい家の家主さんだ。ハイクオリティーの作品に皆ため息。
11:15 行武治美さんの作品「再構築」を鑑賞。前回の大地の芸術祭で大変人気があり、パーマネントコレクションとして残されることが決まった作品だ。行武さんはその後も多くの展覧会で活躍し、瀬戸内国際芸術祭でも作品を発表する。フリーハンドで丸く切り取られた鏡によって覆われている家屋は透明にも異次元に溶け行っているようにも見える。ツアー一同感嘆の声を上げる。そして中に入ってもっとびっくり。内装も一面鏡で覆われていて、鏡像がさらに鏡像を生み出して鑑賞者の生理に働きかけてくる。鏡一枚一枚はフローティングされていて、振動や風で絶妙に打ち震える。それが水面のさざ波のようで喩えようのない美しさ。正面の壁は取り払われてぽっかりと外の風景に解放されている。まるで巨大な感覚器の一部になったかのような体験だ。学生の一人が「1時間でもここにいたいっ!」と言っていたが、同感。
11:30 「再構築」を出発して大きく移動、松代までバスを走らせる。
12:25 松代農舞台に着く。昼食を済ませ、松代周辺の作品群を鑑賞する。
14:00 松代農舞台を出発する。
14:20 「いけばなの家」に到着。バスがやっとの想いで通り抜けることのできる道。坂道が多いこの集落も大変美しい。家の外に竹の造形物が飛び出している。中に入るとぎっしりと人が居る。いけばなの家元がパフォーマンスを行っている。それを見守っている人々の緊張感がすごい。ダイナミックなインスタレーションが並ぶ。現代美術や彫刻とは異なった文脈の造形。そぎ落とされて洗練された表現とは真逆の充満感が迫力だ。ぐさりとこちらに迫ってくる。
植物は情念的な生き物なのかもしれない。植物たちの血液を感じる展示だった。
15:15 福武ハウスに着く。ここでばったり豊田市美術館キュレーターの能勢さんに会う。数年前のことだが、私が+Galleryで行った個展を観て美術手帖のレビューを書いた方だ。現地でたくさんの美術関係者の人に会うが、皆さんが共通しておっしゃるのは、「とても全部観きれない。」という悲鳴だ。それもそのはず、350点の作品が広大な山間地域に点在しているのだから。時間は限られているのでその点と点を結び、ツアーの星座を描いて行くほかない。有名なコマーシャルギャラリーが一人ずつアーティストをピックアップして展示している。その中でも圧巻なのは、渡辺英司さんの作品だ。図鑑から切り抜かれた膨大な蝶が天井にびっしりとはり付いている。廃校の一教室を使ったインスタレーションで、教室の雰囲気とうまくマッチしている。人の都合でカテゴリー分けされ図鑑の中に閉じ込められたおびただしい種類の蝶は渡辺さんの手によって自然空間に放たれたかのようだ。すごい!英ちゃん!
福武ハウスの駐車場にテントのカフェがある。学生のおすすめは冷やしきゅうり。100円。さっそくかぶりつく。う、うまいっ。
16:20 福武ハウスを出発
16:40 田島征三「絵本と木の実の美術館」に到着。鉢という集落がとても美しいということは以前も書いたが、今回は福武ハウスの方から集落に入ってきてすり鉢上の地形をあらためて認識した。坂を降りて行くとすり鉢の底の方に吸い込まれて行くようだ。鉢の底に小学校の校舎が見えてくる。そこが田島征三美術館だ。今回は作品の鑑賞はもちろん、カフェも堪能した。今回参加した教職員の森田さん、渡辺さん、庶務課の富田さんとお茶を楽しむ。
閉館ぎりぎりの17:30までカフェでくつろいだ。
今日の鑑賞ルートは練りに練ったので、作品の充実度は半端ではない。食事も予約して待つことなく食べられ、時間のロスはほとんどなかった。最高の贅沢ツアーができたと自負している。ツアー参加の学生たちの表情も満腹と言った感じだ。もちろんここで紹介した作品はほんの一端。他にもたくさんのすばらしい作品があることを付け加えさせていただく。
ツアーの学生と教職員をホテルに送り、私はやさしい家に帰る。「ただいま」。ふと、奥8ギャラリーに目をやるとモビールプラネットが完成しているではないか!今日は奥8ギャラリーで寝たい。ディレクターのわがままだ。井口、溝田さんに了解を得てお布団を敷かせてもらい、モビールプラネットを見ながら眠りにつく。

昨年田植えをしたカバコフの棚田

昨年田植えをしたカバコフの棚田

いけばなの家は迫力満点

いけばなの家は迫力満点

hachi cafeでくつろぐ

hachi cafeでくつろぐ

モビールプラネットを観たい人はやさしい家へ

モビールプラネットを観たい人はやさしい家へ