Nobuyuki Takahashi’s blog

筋肉まりまり

私が芸大受験のため浪人している頃のこと。
私は一時期、引っ越しのアルバイトで汗を流していた。アルバイトの身、そこそこ働けばいいのに、私は鬼気として働きまくった。なので「おまえはよく働く」と言われ、シーズン中は日に3〜4つの現場に回されたこともある。それもきつい現場ばかりだ。マンションは5階以上あるとほとんどエレベーターが設置されている。私がよく行く現場は4階建てのマンション、重量級の家具から電化製品まですべて階段で担ぎ上げる。
ある現場でのことだ。アルバイトは私の他、筋肉まりまりの明らかにボディビルダーといった屈強の男が意気揚々とやってきた。私の二の腕は相当太かったが、彼のはさらに太くまるで太ももが腕についているように膨らんでいた。現場について早速荷を運ぶ。ボディビルダーくんは荷物を持つたびに「はぁーっ!」と力み、こめかみには血管が浮き出す。それならまだしも、ボディビルダーくん、持久力がなく敢えなくダウン。筋肉が在るために筋肉をつけていても、役には立たんのよ。
思えば、たくさんの肉体労働をした。その中で私が印象に残っているのは、岡崎の石材屋で働いていたある日のこと。初老の職人さんと現場に行った。恵那の錆び石をランダムに積み石垣を作る仕事だった。「こやすけ」と「石頭(せっとう)」で石を割り、組み合わせ、積み上げていく仕事だ。これが、結構むずかしい。職人さんはまるで石の筋が見えているかのように見事に打ち割っていく。私が10たたくところを5、6たたいて仕上げていく。聞けば14の頃からずっと石を彫ってきたそうだ。彼の手は無骨で使い込んだグローブのようだった。美しい身体(からだ)とはこういうものだろう。繰り返し繰り返し、その日を生きるために酷使してきた身体(からだ)はボディビルダーの筋肉のように風船のように膨らんだりはしない。
私は今もあの職人さんを尊敬している。腰は曲がっていても、超かっこよかった。そして、ヘタクソな私にも笑顔で応えてくれ、とてもやさしかった。