Nobuyuki Takahashi’s blog

大島 漆喰塗りと発掘2

7:00 起床。私が泊まっている野村ハウス(11寮)は入所者が住んでいた居住棟だ。7:00に放送でその日の食事や催し、連絡事項がアナウンスされる。
朝食を食べていると、いつもより静かであることに気づく。大島でも北のはずれにあるこの辺りの居住棟には盲導鈴がない。

漆喰を塗り込めていく

8:30 カフェシヨル(第二面会人宿泊所)へ。
昨日の続きの作業だ。ひたすら漆喰を塗り込めていく。
10:00 入所者の脇林さんがやってくる。自転車にアルミフレームに納められた写真10点ほどを括りつけて。その写真は戦後の大島の古い写真だ。当時の生活を知る上で貴重な資料でもある。私は脇林さんにギャラリーの展示に参加していただくため、大島の「松」をテーマに展覧会を開きたい旨を伝えていた。それに共感した脇林さんはご自分の撮影した写真作品だけでなく、島に未整理で残っている古い写真の在処を探っていた。どうも、自治会にたくさん眠っているようだ。来週大島に来た時に自治会の立ち会いのもと、積み置かれたままになっている写真を掘り起こす作業にとりかかることに決めた。もちろん脇林さんも一緒だ。

11:30 野村ハウスに戻り、早めの昼食。お湯を沸かし、うどんを湯がいて食べようと思っていたが、なんとIHの電源が入らない。冷蔵庫も電源が入っていない。福祉室に行き確認すると、「13:00まで停電の予定です。」そうか、知らなかった。諦めて昨日の残りのお米を食べる。
12:30 カフェシヨルに行き、進行具合を段取りし直す。漆喰に埋め込み装飾する漂流物が明らかに足りない。浜辺に行き漂流物を拾う。
今日は西側の砂浜に行く。納骨堂のすぐ近くで拾っていると、鉄の塊が何点も出てきた。少し砂浜を掘ってみるとコンクリートで固められた様々な鉄の断片を発見した。よく見れば、斧、釘抜き、マンホールの破片だとかろうじて判る。大島の浜辺では細かいガラスの破片もたくさん見つけることができるが、これらの断片はどこから流れ着くのだろうか。鉄の塊は流されたとは考えにくい。なぜか、気にかかり、それらの発掘物を担いでカフェシヨルに戻る。
作業を続けていると元自治会長森さんと香川県庁の大島担当宮本さん、瀬戸内国際芸術祭のオフィシャルな記録を撮影するフォトグラファー中村修さんがやってきた。森さんは偶然船の中で宮本さんと一緒になったようだ。中村さんに大島の取り組み「つながりの家」を大雑把に説明し、作業に戻る。中村さんは早速私の作業風景を撮影する。
今日の作業も終盤にさしかかった頃、入所者の野村さんがぶらりとやってくる。
野村さんは壁塗りの終わった部屋を見て、「おー、きれいになったの。」とおっしゃる。漆喰に埋め込まれた漂流物に話が移り、今日私が浜辺で発掘してきたものについて聞くと、「昔、大島は物やゴミを捨てる場所がなかったから、砂浜に穴を掘って埋めたんじゃ。」とおっしゃる。そうか!漂着物ではなく、島の浜辺で砂に揉まれた物だったとは。カフェの装飾となった事物は大島の記憶のかけらなのだ。
野村さんが「ギャラリーやカフェはどうする、土足にするんか。」と訊ねられる。「とても迷っています。入りやすさを考えると土足の方がいいのですけど。入所者の皆さんにその昔、治療に来た看護師や医師が長靴のまま入所者の部屋に上がってきた、という話を聞くとどうしても土足に踏切れないんです。」すると野村さんがゆっくりと頷いて「ま、玄関から靴を脱いであがるといいじゃろ。」とおっしゃった。
この一言で迷いは消えた。ギャラリーもカフェも土足にはしない。
15:30 今日の漆喰塗り作業終了。出窓ルームはすっかりモデルルームになった。
使った道具を片付け、一通り掃除してから野村ハウスに戻り荷造りをする。
16:15 高松便のまつかぜに乗船。大島を後にする。
今回も多くの記憶を発掘できたことが、うれしい。