Nobuyuki Takahashi’s blog

足助病院訪問見学会 そしてつながる

5:30 起床。6:45には家を出る。
8:00 大学に着く。プロジェクトルーム前に車を留め、スタッフ川島にメールを打とうとしたその時、川島の元気のいい挨拶がひびく。いいタイミングだ。しかも、快晴ときた。病院訪問見学会には絶好の日和である。
私の自家用車に機材などを手早く載せ、レンタカーショップに向かう。
8:45 庶務課職員でやさしい美術に参加する村田、高橋、スタッフ川島の3人がレンタカーショップで待ち合わせ。2台のレンタカーの手続きをする。私は自家用車を運転する。
9:15 春日井駅に到着。メンバー集合を待つ。急遽来られなかった者をのぞき16人全員が時間通り集合する。
9:30 春日井駅を出発。新しいメンバー10人は緊張の面持ち。車中交流を深めるよう旧メンバーに伝えてある。
10:45 足助町香嵐渓に到着。まずは足助散策にでかける。例年は6月に実施しているが、4月にこうして新しいメンバーを迎えて足助に来たのは初めてだ。楓の新緑がまぶしい。
11:00 少し早いが、川縁で昼食タイム。心を洗い落とすかのように清らかな流れ、新緑の燃えるような美しさに魅せられ、メンバー間に自然と笑顔がこぼれる。靴を脱ぎせせらぎに脚をさらすメンバーもいる。微笑ましい光景だ。
12:00 香嵐渓から中馬の街並を歩く。足助川に沿って古い蔵が軒を連ねている。香嵐渓は名勝地のため完璧に整備されているが、中馬の街並は整備されすぎず、寂れてはいるけれど趣があり、生活感にあふれている。塩の道と呼ばれ宿場町として栄えた当地に住まう人々の顔がくっきりと見えてくるようだ。メンバーらは足助をすっかり気に入ったようだ。
蔵を改装した本屋兼ギャラリーに立ち寄る。私が小原村に住んでいた頃に仲良くしていた陶芸家木塚博長さんが作品を展示しているのだ。急須が所狭しと並んでいる。急須の製作は手間と時間、技術のいる仕事だ。土、釉薬もすべて異なる故、時間と汗を感ぜずにはいられない。何より繊細なつくりが人柄を表している。
本屋を出るとメンバーからシシコロッケを食べたい、と要望があがる。それならば行こう。イノシシの肉を使ったコロッケを食べに!お肉屋さんがつくるコロッケ、なかなかおいしそう。人数に合わせて揚げてくれるというので15分ほど待つことにする。塀にはイノシシの生皮が吊るしてある。写真を撮ってるうちにコロッケができたようだ。皆揚げたてのコロッケを食べながら足助散策を続ける。
14:00 香嵐渓を出て足助病院に移動する。いよいよ訪問見学会だ。毎年恒例で行う訪問見学会。入院している患者さんにインタビューをすることで病院という「非日常」ともとれる場所が現実感を帯びてくる。病院とは実は「日常」なのだ。
リーダー古川がマナーペーパーを読み上げる。参加メンバーは気を引き締めている。中には「最初、どのように話しかければ良いですか?」「挨拶は病室全体にしたほうがいいですか?」と質問するメンバーがいる。不安になるのは無理もない。いきなり初対面の人にベッドサイドで語りかけるのである。答えは事前に人から教えてもらうよりも、自分で現場に行き会得してほしい。ここからは私の力がおよぶところではない。
14:30 3〜4人組でA棟、B棟に散らばる。私はメンバー3人を連れてB棟2階に行き、4人部屋に入院している女性とお話しする機会をいただく。今日はお二人の入院する病院利用者にお話をうかがった。ここではAさんを紹介したい。
足助近くにお住まいのAさん。家業は農業で稲のほか、野菜を作っている。息子さんは町に出て、今は旦那さんと二人暮らしだそうだ。季節の食べ物、野菜をおいしくいただくコツなど、話は広がる。お話の流れから、息子さんを交通事故で亡くされたことにまでおよんだ。「しょうがないね。」との静かな声に深い悲しみを感じ取ったのは私だけではないだろう。
後に聞いたのだが、ほかの病室では戦争体験、それも大空襲の最中をくぐり抜けてきたお話を聞いてきたメンバーもいた。その方は今まで誰にも話す機会がなかったとおっしゃったそうだ。全くの第三者である私たちが入院している方々から思いもかけないお話を聞く。今ここにいる人々はそれぞれ人生の物語を描いてきた。それを強く実感する。私たちが行っているインタビューは他者の記憶をたどることでもあるのだ。創設当時から8年間継続してきたインタビュー。ここに私たちの原点がある。
16:00 待機場所の職員食堂にインタビューを終えたメンバーらが帰ってくる。皆、言葉が出てこない。でも目を見ればわかる。何かを受け取って帰ってきたということを。
16:30 後片付けを済ませ、病院職員に挨拶申し上げて病院を出る。駐車場でリーダー古川が「今日の訪問見学会で感じたこと、話したいことがあると思います。それらを今度のミーティングで出し合い、共有して次のステップにつなぎましょう!」皆の集中した視線が一斉にうなづく。
レンタカーに乗り込み、帰路につく。3台の車中では、今日起きたこと、見聞きしたことで話題は尽きなかったことだろう。創設当時は大学の通学バスで出かけたことがあった。その当時は帰りの車中で熱く語り合ったものだ。今回は次のミーティングまでお預けだ。
18:00 全員を出発地と同じ春日井駅まで送る。レンタカーを返却し、私と川島はプロジェクトルームに戻る。何度も経験しているけれど、私も川島も心に引っかかる何かを繰り返し反芻していた。平成22年度の病院訪問会は例年に違わず新しい予感に満ちていた。初心に帰る新鮮な体験。

20:30 自宅に戻りエンジンを止めてふと目を遣ると携帯に着信履歴がある。泉からだ。折り返し電話をするとうわずった泉の声。そう、彼女は今越後妻有(新潟県十日町市)の地にいる。夫婦で十日町病院の皆さんと宴の席を楽しんでいるところだったのだ。「先生、皆さん高橋先生の声を聞きたいそうです。」電話のローテーションがはじまる。十日町病院の経営課井澤さん、六日町病院に移動になった泉沢さん、高校の事務長に移動した高橋さん…。皆さん口々に「大地の芸術祭、昨年の夏は忘れられませんよ。」「また妻有に来てくださいね。」とおっしゃる。まるで恋人と電話している心境。これほどまでに、私たちの絆は深いのだ。関わる、ということは始まりがあっても終わりはないものだと感じる。泉はそれを全身で受け止めるばかりでなくそれを楽しんでいる。昨年までスタッフで働いてきた泉はやさしい美術を通して自身が取り組んできたことを「仕事」ではなく「人生」にまで昇華している。
つながりは深まるばかりだ。なんという幸せ。