Nobuyuki Takahashi’s blog

大島 漆喰塗りとよもぎ祭1

6:45 名古屋駅ナナちゃん人形前にて集合。高橋、泉、張、天野の4名で大島に向けて出発する。井木は夜行バスに乗り、明日の朝大島に着く予定だ。
7:00 高速バスに乗り込み、一路高松へ。体力温存のためバスで走る間、仮眠をとる。途中鳴門を通るが、うず潮は見られなかった。
12:30 高松着。高松駅西手にあるうどん屋さんに行く。オフィスビルの一角にある新しいお店だが、さぬきうどんの味を十分楽しめた。
13:00 商店街に行き、よもぎ祭用の茶葉を買いに行く。見るからに老舗のお茶屋さんは風情たっぷり、迷わず写真におさめる。
13:30 駅前のスーパーに寄り、食材とよもぎ祭ワークショップの材料を購入。荷物を皆で手分けする。桟橋に向かうとちょうど大島側から官用船まつかぜが着くところだった。初めて大島にわたるやさしい美術メンバーの張もわくわくしているようだ。
13:55 まつかぜに乗船。香川県庁の大島担当宮本さん、西日本放送の撮影クルーが同行する。
14:15 大島着。荷物を野村ハウス(11寮)に置きにいく。初めて大島に来た張を連れて、納骨堂に行き、私は青松園本部へ。事務長室に入ると、宮本さんが資料を広げ、事務長、福祉室室長、副室長が和やかに討議しているところだった。島内の案内掲示、インフォメーションセンターの設え、のぼり旗の設置場所などを詳細に打ち合わせる。風の強い大島ではテントや旗はあっというまに吹き飛んでしまう。慎重に検討を重ねる事項が多いが、建設的に話が進んでいるのがうれしかった。
15:00 盲人会に行く。盲人会の磯野さんと合う約束をしていたのだ。私が「古いもの」「捨てられないもの」を集めて展示するとお話ししたためか、磯野さんが大事に保管していた点字タイプライターを見せてくれることになった。
盲人会のお部屋にはすでに泉、張、天野が磯野さんからお話をうかがっているところだった。テーブルには点字タイプライター。携帯用と大判のものの2つのタイプがある。磯野さんから点字のしくみをわかりやすく教えていただいた。6つの点の組み合わせでひらがなを示す点字はシンプルかつ機能的だ。タイプはその組み合わせを鍵盤で押し込むと紙に突起が刺さり凸面が記される。これらのタイプライター、昭和35年頃までは活用されていたそうだ。点字には音符もあるそうだ。磯野さんはハーモニカを教わったという。
磯野さんはハンセン病が直る特効薬ができてからも、薬が効かず、最終期まで病状が進行してしまった時期もあったが、いくつかの薬を併用する療法によりなんとか回復した。磯野さんの手の指はほとんど残っていない。末梢神経が麻痺するハンセン病に加え、磯野さんは視力を失ったため、手足の怪我に気付かず、そのまま放置して悪化させてしまい、次々と指を切断しなければならなかった。昔の日本のハンセン病治療が菌の消滅に集中しすぎたため、後遺症への認識が薄く、多くの入所者が重い後遺障害を持つにいたってしまった。磯野さんにとっては点字タイプライターを押すことさえ大変難しいのである。指先で点字を読むことも不可能だ。だから、盲人の入所者は舌読、つまり「舌」で点字をなめて読んだのである。
盲人会の入所者の皆さんは当時の整備されていない療養所の生活を改善するため、この点字タイプライターで訴状や文書を作成した。凄まじい努力、文字通り血のにじむ労力によって生き抜いてきたのだ。
私は「ご苦労されたのですね…。」と話しかけると、「当時はそれがあたりまえだった。戦時中のひどい状況に比べたらどうということないよ。」とおっしゃる。磯野さんはユーモアがあって、誰とでもフランクに接するお人柄。話しているうちにこちらが心を開いていくような信頼感を感じる方だ。記憶力がすばらしい。カラオケの歌詞を何十曲も記憶している。私が磯野さんに挨拶すると「高橋先生ですね。」と返してくださる。私の顔が見えなくても声でわかるのだ。
磯野さんから点字タイプライターと盲人会の看板を預かることになった。ギャラリー15で展示する予定だ。
18:00 磯野さんが帰宅され、遅くなってしまったが、会う約束をしていた入所者脇林さんのお宅に向かう。途中、自転車に乗った脇林さんと出会う。自転車の荷台にはみかん箱サイズの段ボール。写真作品と写真を印刷したはがき2000枚を載せている。「野村ハウスでお話ししませんか。」脇林さんと写真談義をしながら野村ハウス(11寮)に向かう。
野村ハウスで写真作品の展示方法を打ち合わせる。脇林さんは現在古い写真を発掘するために入所者をたずねて歩いているとのこと。脇林さんが撮影してきた松の写真と過去の古い写真とが混在した展示にしよう、と相談する。
19:00 脇林さんが帰宅される。
泉が中心になって夕食の準備。初めて大島を訪れた張にとって、なかなか濃密な日であっただろう。入所者から聞いたお話はどれも貴重で鮮烈なものだ。
21:00 大島の入所者が使っている共同風呂に入り、一日の疲れをとる。
1:00 就寝。