Nobuyuki Takahashi’s blog

大島 打ち上げ会

7:30 名古屋から新幹線に乗り、岡山を経由。
10:30 高松着。風は冷たいけれど日差しのあるところではあたたかい。
桟橋に行く途中で本屋に立ち寄ろうとしていたら、後ろから「高橋先生!」と声をかけられる。大島のガイドをつとめてくれたこえび隊の石川さん、藤井さんだ。二人ともぐるぐるっとマフラーを巻いていてかわいい。桟橋に行くとにわかに同窓会の様相。こえび隊、警備員、アートナビを務めた面々が待合室に集まってくる。
11:00 官用船まつかぜに乗船。右手に屋島、左手に女木島を見ながら一路大島へ。山々は紅葉で赤く染まっている。
11:20 大島着。荷物を置いて納骨堂にてご焼香する。大島の人々への挨拶は欠かさない。
老人会館に行くと、AFG高坂さんらが手配したお弁当がテーブルの上にずらりと並んでいる。9時便で一足先に来てくれていたこえび隊の皆さん、入所者の皆さんが用意してくれたのだ。一方厚生会館はぴりっとした空気が流れていた。昨日から大島入りした田島征三さんがアシスタント数人と一緒に作品の仕上げ作業にとりかかっていた。挨拶のみでその場は失礼し、老人会館で待機。入所者の皆さんとしばし談笑する。「なんだ、今日は穴の開いたズボンじゃないな。」とおっしゃる方もいる。そうだ、この夏は激烈な作業の毎日でジーンズ3本の膝が抜けてしまったんだった。大島では「穴の開いたズボン」の人で通っていたのだろうか。
12:00 自治会長の山本さんはNHKラジオの取材が長引いていて、こちらにすぐに来られないとのこと、まずは乾杯をすることに。「打ち上げ会とのことですが、{つながりの家}の取り組みは継続することになりましたので、新たな船出の会にしたいと思います。」と私の乾杯の音頭ご挨拶。
乾杯から始まったにぎやかな会。お互いの労をねぎらい、105日間を振り返る。カフェの泉、井木は水菜のサラダや大智さんの畑で採れた大根をすりおろして持ち込み、さらにテーブルに彩りが加わる。「たくさん食べられない」と女性の入所者の皆さんが次々に私のところにお肉、お刺身、ごはんを盛ってくる。グラスにはいったビールは全く空く暇がない。飲み干したと同時に注がれていく。
途中、入所者の脇林さんが顔だけ出してくれる。体調が悪く、毎日点滴を打っているそうだ。そんな中、「あいさつだけでも。」と老人会館の玄関口まで来ていただいた。私の先生。「これからもよろしくお願いします。」
14:00 こえび隊、警備員、アートナビを務めた皆さんが一言ずつ挨拶。私が何よりもうれしかったのは、全員が「〜また大島に来ます。」と宣言したこと。これは入所者の皆さんにとって何よりもあたたかい言葉だったに違いない。「一度きりでなく、二度三度と人がやってくる島にしたい。」入所者全員の心情だ。その心情に寄り添うようにガイドツアーを行ってきたし、来場者を丁寧に迎えてきた。スタッフを務めた皆さん自身がまず最初の賛同者であり、入所者と気持ちの通じ合う仲間、友達となった。私の当初の目論み、「大島ファン」を増やす野望はまだまだ小さな輪かもしれないけれど着実に広がりをみせている。黒幕?!としてはうれしい限り。本当に皆さんありがとう!
14:30 宴の席は終わりを告げ、入所者の皆さんは三々五々お部屋へ帰っていく。私たちは片付けに入る。
片付けも一段落したところで、私は一般独身寮11寮=野村ハウスに行く。持って帰らなければならない資料や機材を整理し、スーツケースに詰め込む。
解剖台に挨拶し、15寮にも挨拶。会期中が想像できないほど静まり返ったギャラリー周辺。解剖台は引き上げられてきた当初の激しさと荒々しさは影をひそめ、静謐な佇まいへと変わっていった。洗い、修復し、磨いていたあの日々がなつかしい。今日の打ち上げ会で入所者の野村さんが「解剖台は結果的に引き上げてきて展示して、よかったな。」とおっしゃられた。入所者全員の総意ではないかもしれないけれど、解剖台をめぐり多くの来場者がこの大島のこと、人の尊厳について思いを巡らせていた光景を野村さんは日々見つめていたのだ。いつもながら、私は野村さんにかけていただく声に救われる。
15寮にいると入所者の森さんが自転車でやってくる。GALLERY15室内に入り、「古い写真」の在処を二人で確認。森さんの話ではこれからさまざまな場で活用するとのこと。
森さんとお話ししながら桟橋方面へ。私は荷造りした荷物と老人会館の荷物を取りに行く。カフェから賑やかな声が香ばしいコーヒーの香りとともに風に乗ってくる。森さんも一足先にその香りに誘われてカフェに辿り着いていた。カフェではまだ「芸術祭同窓生」というか「大島ファンクラブ」の連中が井木、泉の新作のお菓子、ろっぽうやきなどを愉しんでいる。井木、泉はさりげなく、カフェのくつろぎの空間をだれも拒むことなく解放している。かげってきた暖色の日差しがカフェ・シヨルを照らす。
16:15 まつかぜに乗船。山本さん、大智さん、泉、井木、新妻さんらに見送られ大島を出る。悲しい雰囲気はなかった。「次がある」そんな明るい空気が船内を満たしていた。
高松の桟橋で皆さんとしばしお別れ。帰路につく。