Nobuyuki Takahashi’s blog

うねり

7:00 島内放送では、朝一便の官用船は出るが、それ以降は欠航になる可能性もあるとのことだった。天候も気にかけなければならないが、やはりわざわざ大島に足を伸ばしてくれた一般来場者への対応に集中しなければならない。高松側にいるこえびネットワークの笹川さんと電話で連絡を取り合いながら、対応策をその都度立てる。
海上へ出なくとも大島の桟橋で風の強さ、シケの激しさは十分体感できる。海全体が沸騰しているかのように大きくうねる。波頭は白く、そこをさらに風が煽り霧吹き状に拡散する。海上の視界を阻むのは霧ではなく、この噴霧状の海水が宙を舞っているからだろう。それでも数名の一般来場者が大島にやってくる。心配されたが終日船がとまることはなかった。こえび隊でガイドやカフェスタッフを担当した皆さんが旦那さんをつれてきてくれたり、友達と連れ立ってきてくれたりと、親密なネットワークで「大島ファン」を増やしている。そしてほとんどの方がリピーターになり複数回大島を訪ねてくれる。そんななか、芸術祭終了後のカフェの役割はますます重要になってきている。寒い季節柄室内で落ち着く場所が求められるのは当然だが、単に落ち着くというにとどまらず、大島を味わうことができる要素がふんだんに用意されていることにある。冬の食材は入所者がつくった野菜。それらの魅力を余すことなく活かす。その創意工夫が訪れる人々をなごませる。今回の一般公開日ののちには「出張シヨル」と題して第二面会人宿泊所=カフェ・シヨルから離れ、大島会館で入所者と職員を招く。そうした開かれた姿勢が人々の心を動かしている。カフェを運営している井木、泉の二人は一切合切を心から楽しんでいる。それがカフェ空間の穏やかさに拍車をかける。
外ではあいかわらずとめどなく風が吹く。激しい海のうねりとは対照的にカフェ・シヨルの店内は「凪」である。

16:15 こえび隊の藤井さんと高松行きの官用船まつかぜに乗船、名古屋へ向かう。桟橋から見ていた海が実際に漕ぎ出てみるとずっと激しいことを実感する。船首が波を切るたびにしぶきが視界を覆う。海岸から見えていたうねりは実は末端であり、そのいくつかを束ねたもう一段階大きなうねりに包括されている。船はこの大きなうねりにはなす術もなく、辛うじて末端の波を切って進むのだ。この様子をながめながら、スタジオジブリ製作の「崖の上のポニョ」の1シーンを思い出していた。嵐の海のシーンが今目の前に繰り広げられる情景を忠実に描写しているのだ。どんなに大きな船もうねりには身を任すほかない。かの映像では船は木の葉のように儚かった。世界有数の内海である瀬戸内にこんな荒ぶれた一面があるなんて思いもしなかった。
高松について間もなく奥さんからメールが届く。「名古屋は吹雪いているよ。」これを聞きつけ、夜行バスを断念する。バスは運行しているようだが、雪のため高速道路が寸断される可能性が高い。予約を解除して電車で帰ることにする。岡山までは順調だったが、新幹線のダイヤは大幅に乱れている。下りが1時間30分ほど遅れがでているのは理解できる。京都―米原間でのろのろ運転。しかし私が乗るのぼりも1時間の遅れが出ている。こちらはマシントラブルのようだ。ホームは長蛇の列。満席のうえ廊下も隙間なく人と荷物で埋め尽くされている。京都―米原間は雪でさらに遅れる。結局1時間30分遅れで名古屋着。なんとか地下鉄の最終に間に合う。