Nobuyuki Takahashi’s blog

発達センターちよだ 何ができるのだろう

私にできることは何か。できることと言えば、絵を描くことだったり、絵を一緒に描くことだったり、する。先日のブログとは逆説的に「やれること」に全霊をかたむけたとき、それはやっぱりアートかもしれない。

昨日教授会で教授会構成員全員に私からあるお願いをした。絵はがきワークショップのキットを学内に設置して学生、教職員の善意を集めたいと呼びかけた。「絵はがきワークショップ」とはやさしい美術プロジェクトが足助病院に5年間にわたってベッドサイドに絵はがきを届けてきた企画である。年間400枚程度の絵はがきを季節に合わせてコーディネート。その手法を用いて、被災された人々に絵はがきを届けようと思い立った。それらをどうやって現地に届け、どのように見てもらうのか、今の私にはまだ見当がつかないが、じっとしていられない。私は物資の仕分け作業に参加したり災害支援のNPOなどからも意見をうかがおうと考えている。ともかく、始めよう。私は毎日絵はがきを描き続けている。

卒業生の涙

昨日夜にやさしい美術プロジェクトのメーリングリスト通じて 絵はがきワークショップのキット設置作業を呼びかけたら、卒業生で元やさしい美術のリーダーを務めた林治徳がプロジェクトルームにかけつけてくれた。彼の後姿を見つけた時、いいしれぬうれしさがこみあげた。
発達センターちよだのワークショップの準備、絵はがきキットの設置作業を任せ、私は午前中、卒業式に出席し、卒業生を送り出す。式の後は晴れ着のまま記念撮影。午後にホテルにて大学主催の祝賀パーティーがあるが、私は欠席してスタッフ川島と発達センターちよだの造形ワークショップに向かう。

子どもたちとお母さん方と会うのが今日が最後になるかもしれない―。卒業生も大事だが、こちらもはずせない。
先月行った「布にしみこむ絵を描こう」が好評だったのだが、参加できた子どもたちが二人だったので、他の子どもたちの反応を見たいということになり再度行うことになった。内容は同じだが、細部にわたって見直し、子どもたちのそれぞれの性格や趣向、障害に合わせてブラッシュアップしている。今回の一番の工夫はあらかじめ絵の具を紙粘土で溶き、どろりとした物質感を与えるとともに、相当量増量してある。これで思いっきり子どもたちは絵の具を使うことができる。容器を握りしぼったときの絵の具がほとばしる感触も子どもたちの感性を刺激してくれるのではと期待する。
14:00 発達センターちよだに到着。準備を進める。
15:00 子どもたちがお母さんの手にひかれてちよだにやってくる。午前は風が冷たかったが、午後は気温があがった。子どもたちは外で遊び回る。一緒に遊び、おやつを食べ、着替えをしたら「絵画の取り組み」という一連の流れ。その日の天気や子どもたちの心の状態、サポートするスタッフややさしい美術メンバーの対応よって子どもたちの行動は刻々と変わる。ちよだの職員さんは関わり方とセットで子どもたちの微細な変化に心を配っている。その姿勢は私たちにとって学ぶべきことが多い。
今日は4名の子どもたちが取り組みに参加。Aちゃんは前回も参加しており、味を占めたのか、前回にひきつづき床面に絵の具を溶いた色水を投げ打つことを繰り返す。はっきりとはわからないが、色と色が混ざっていく様子に心動かされているように見受けられる。それは今回唐突に見られたことではなく、以前から色感の良さを感じる場面は何度かあった。
Kくんは天気が良い為に部屋にあがらず砂場や水の入っていないプールで遊び続ける。着替えをさせたり、他の子どもたちと協調して取り組みの部屋に向かうことも成長という視点では大切だ。しかし、今日はさわやかな日和に突き動かされて「遊びたい」気持ちが何にも勝ったようだ。準備してきた布を張ったフレームを外に持ち出し、Kくんに差し出して反応を見てみる。砂をぶちまけ、擦り込み、つばを吐きかけてはすりこむ。その弾性を帯びた感触はKくんには心地よかったと見られる。離れては戻ってきてすりこむ行為を繰り返している。新しい感触と出会い、そこから新たな感性が開かれていく、そういうことがKくんの中で起こっているのであれば本当にうれしい。私たちにできること、だと思う。

17:00 お母さん方が子どもたちを迎えにくる。今回の取り組みをひととおり説明した後、成果物を見ていただく。しばしば子どもたちの作品を見ていただくと大胆な感性の解放を見て感動されることがある。例えば、今回のように床一面に絵の具をぶちまけること。当然自宅ではできることではない。許される場所とそうでない場所が子どもたちに自覚されていれば、なお子どもたちの成長を促したことになるが。

KちゃんとAちゃんは4年間継続して造形ワークショップに参加してきた。小学校の授業時間帯の関係で、来年度のワークショップには参加しないことになった。今日でお別れである。
KちゃんとAちゃんに私たちは何ができたのだろうか。結論がすぐでることではないが、少なくとも子どもたちがこれから体験していくであろう世間の荒波の中で制作体験で培った造形力が何かの助けなってくれればと祈る。私たちも受け取ることがたくさんあった。忘れられない場面は映像のように思い出される。ありがとう、子どもたち。お母さん方感謝申し上げます―。

18:30 片付けを終えて発達センターちよだを発つ。スタッフ川島が運転する車中、電話がかかってくる。NHKディレクターでドキュメンタリー制作で著名な西川さんからだ。震災後、自分ができることは何か。西川さんもずっと考えていたそうだ。個別の心のこもった等身大の身の振りはとても大切。場合によっては個々で動くよりも、それぞれの専門性のノウハウを共有して横のつながりを作りムーブメントを産み出していくのも一つの選択肢だ。西川さんと意見を交わす。

20:00 大学のプロジェクトルームに戻り、後片付け。今日、絵はがきのキットを設置に来てくれた林からメールが配信されていた。「被災された方の笑顔と復興が1日でも早く戻りますように…。」とのメッセージ。その通りだと思う。

21:00 千種駅近くのバーに到着。今日、晴れて卒業した学生たちが企画した送別会が終盤にさしかかったところへ滑り込む。19:00から始まっていたので最後の挨拶だけでもと駆けつけたが、思いのほか皆のんびりと歓談を楽しんでいる様子だ。間に合ってよかった。我がコースの授業の一部を担当いただいているデザイナーの柳智賢さん、アーティストでワークショップ実践家の山口百子さんもこの宴席にお立ち寄りいただいた。ありがたい。柳さんから「やさしい美術や高橋さんで震災に関連して何か動きがあるようですね。私も心痛めている一人です。何かあればすぐにでもお手伝いします。」と申し出てくれる。こうした気持ちの輪が具体的な力に結びつくようにしてゆきたい。まずは語り合うこと、そして行動に移すこと。