Nobuyuki Takahashi’s blog

七ヶ浜 足湯

6:00起床。それぞれが自分の食器を持参して厨房に行き、ご飯を盛る。インスタントのみそ汁にお湯を注ぎ、ぶっかけご飯を食す。
8:30ボランティア集合。レスキューストックヤード事務局担当者に絵はがき「ひかり はがき」340枚を持ってきたことを告げる。今日の支援活動が何になるのかはこの際こだわらない。まず、現地で求められていることを実行に移すことが先決だ。
作業振り分けが発表される予定だったが、個々に希望を出すことになる。私はこれまでの経験から力仕事に向いているのはわかっていたが、「ひかり はがき」を持参している限りはメッセンジャーとしての役割も重要だ。作業は撤去作業、泥のかき出し、ローラー作戦(住民のお宅をまわり、ニーズ調査をする)、足湯、その他はボランティアセンター(以降、ボラセン)で仕事を割り当てられる。私は一番被災した方々に会う機会の多い足湯隊に参加することにする。現地の事務局、一緒に活動するボランティアの皆さんにも「ひかり はがき」を配ることを快く受け入れていただいた。
午前中はトイレ掃除や片付け、物資、食料の整理の作業に追われる。少し経って気付くが、地元のボランティアも多い。その人たちも被災者である。皆明るいが身内が行方不明であったり、亡くなった方もおられる。
足湯隊は総勢8名、ミーティングを行う。仕切ってくれるのは、現地ボランティアのRさん。彼女も災害に遭った一人だ。この春ユニバーサルデザインを勉強すべく大学に進む寸前の大震災。大学の再開は5月に入ってからだそうだ。
足湯とは、被災した方々に足をお湯につけて、手足のマッサージを施し、しばしリラックスの時間を提供するという取り組み。実は加えて大切な目的がある。大きな災害にみまわれた方々が避難所で口にできない不満や不安を聞くこと、これ以上我慢ができないほどの極限の生活をしいられてこぼすこともできない自身の境遇を語り、解放する場であること。私は「ひかり はがき」を被災した方々との語らいのきっかけとして活用する旨を足湯隊メンバーにお願いする。
プロパンのガスボンベ、大鍋、ポリタンクに入れた大量の水、差し湯のやかんなど重いものも多く、なかなかの重労働だ。避難所の一つ「国際村」に向かう。
避難所に入って行くと壁という壁にびっしりと掲示物があるのに気付く。とても「ひかり はがき」を掲示するスペースはなさそうだ。手渡しがやはり一番だ。足湯の設えを整え、早速大鍋にお湯を沸かす。
14:00 足湯開始。最初は小学生の二人が足をお湯につける。温かい食事と同じように、足湯は人々の心を解きほぐして行く。
足湯隊の皆さんはとても「ひかり はがき」の意義を理解してくれている。足湯を待っている方に三つのファイルに綴じた340枚の絵はがきを見てもらう。気に入ったものがあれば、自由に持ち帰っていただく。初対面で人々の身体に触れ、お話をする。緊張しないはずはない。お互いの間に緊張が走ってしまう前に絵はがきを紹介する。「ひかり はがき」は話題作りのきっかけにもなっているようだ。私は3人の方に足湯を施した。
被災し、避難所生活をおくっているおばあちゃんAさんは私を見るなり、ご指名を受ける。屈託がなく笑顔を絶やさないAさんは「こんなに若い男の人にしてもらえるの、ありがたいねぇ。」とおっしゃる。手のマッサージをしていると、しばらくしてAさんは訥々と話しはじめた。
Aさんは例外に漏れずご自宅はすべて流されてしまった。夜寝る前にいろいろなことが頭に浮かび、興奮して眠れない。安定剤を常用して床につくのだそうだ。
足がむくんでいる方も少なくない。掌ががちがちに固くなってしまっている人もいる。きっと疲れがたまっているのだろう。足湯の間無言の方もいる。特に男性は。漁師だった方の手はごつくて大きい。海の男たちはいのちの糧である海に出ることができない。沈黙はただの沈黙ではなく、手からもじわりと伝わってくる。
15:15 足湯を終え、撤収作業にとりかかる。
15:30 ボランティア「きずな館」に戻る。私はすぐ近くのサッカー場のテントに行く。大きなアーチを描く3張りのテントの中身は、被災現場の泥の中から掬い出された、膨大な写真、位牌、身の回り品である。思い出の断片が持ち主から断ち切られ流れ流れて現場で撤去作業をしているボランティアや自衛隊の皆さんに拾われたのだ。個人の記憶がこなごなに粉砕される。その凄まじさに足がすくむ。もう、これ以上言葉が見つからない。
16:00 足湯の反省会を開く。実施の方法、人々との接し方、問題点の洗い出しと解決策を手短に話し合う。事務局スタッフはどうしても必要なこと以外はボランティアの自主性に任せる。一見冷たく感じられるかもしれないが、ここにやってきたボランティアの目的意識と志しを信じているからこそだと思う。一同に心地よい緊張感が張りつめている。
その後は夕飯の支度だ。我々ボランティアも食べて行かねば続かない。
同じ釜の飯を食う。今回参加するボランティア全員で食卓を囲む。チームは一体感に包まれて行く。
20:00 きずな館事務局でミーティング。分散して支援にあたったそれぞれのチームで今日の活動内容と反省点、確認作業を行う。情報の共有が大切。いつどこに派遣されることになるかわからない状況で、心に備えること、不安を解消しておくことはとても大切だ。
騒ぐ人、お酒(飲酒は禁止されている)を飲む人はいない。疲れを明日に残さないために、全員早く床につく。
23:00 就寝。