Nobuyuki Takahashi’s blog

宮城県七ヶ浜 まごころ表札を届けよう2

表札の装飾に使う思い出の品々

昨日にひきつづき、表札制作のワークショップを実施。
9:00 武道館に入り、画材や道具類のチェックをする。昨日完成している表札にニスをひく。水性ニスを使用。空気が乾燥しているせいか、乾きが早い。この調子ならば、今日のワークショップで制作した表札のほとんどが仕上がりそうだ。
見通しがついて心にゆとりができる。昨日ほどの緊張はない。
10:00 今日のワークショップに参加する中学生が集まってくる。テレビやインターネットの呼びかけで一般参加の方もいる。仙台市からバスに乗ってこられた方、はるばる秋田県から中高生のお子様を連れて来た方もいた。昨日のプロセスにならって目標を共有するための説明をレスキューストックヤード浦野さんが担当。ワークショップの実施は私たちやさしい美術が進行した。制作は快調に進む。作業性に重きをおいた手順にしぼったことで集中度はとても高い。全員が作業に熱中している。
ふと、休憩で武道館の外に出ると、自衛隊の皆さんがお風呂用のお湯を沸かす作業をしている。夜中でも自衛官の姿を見かけないときがないほど。ボランティア同士で聞かれる「おつかれさまです。」の挨拶が自衛隊の皆さんには馴染まない。自衛隊の皆さんはそれを受け付けない空気、つまりお礼を言われる立場にない、という頑な姿勢を感じるのだ。仕事とはいえ、 昼夜問わず働き続ける自衛隊には頭が下がる思いだ。
昨日、夜寝る前のこと、少しだけ丸山が七ヶ浜町に来る前の石巻での経験を語ってくれた。同じボランティアに加わった者に芸大生がいたそうだ。彼は北海道出身で故郷まで帰る途中だったと言う。震災後、大学を休み、自転車にありったけの荷物を括りつけて東京を出発。故郷までの道のりにある被災地を転々としボランティアを続けている。私はこの話を聞いて若い世代の誠実な答えを見た気がした。私が20代であれば、同じことをしただろう。彼らは平常の学生生活に復帰することが難しいかもしれない。でも、その5年後、10年後、何かを見いだし何かを始めているのではないかと想像する。芸術を語る時、震災前と震災後という線引きは近い将来現れるだろう。そんな予感の傍らから。
さて、ワークショップに戻ろう。午後には避難所からワークショップの様子を見に来る方がいた。今回お宅の土台の木を提供いただいたWさんやKさんもやってくる。皆さん笑顔で眼差しはあたたかい。

完成した表札

Wさんはずいぶんと長い間、表札制作の様子を眺めていた。 Wさんは私を呼びとめて訥々と話しはじめる。Wさんはご自宅の痛んだ土台を板材に切りながら思っていた。傷があって穴のあいた材が、正直どうなるんだろうと半信半疑だったそうだ。「それが、こんなに(すてきに)なるとは思わなかったな。」私はこうしてWさんと話しながらやさしい美術がハンセン病療養所大島で取り組む{つながりの家}を思い出していた。入所者の森さんや野村さんが私が施設内の古いものを集めて回ったり、新しい建物ではなくて入所者の生活感を残す建物を使うと言ったりで、「一体何を考えているのか」「何をするのか」疑問ばかりだったとおっしゃった。私がすることは人にちょっとした冒険を強いる。予測がつかないことにつきあっていただくのだ。結果だけを見てもらうのでなく、いっしょに道筋を歩む。するとある地点でお互いが共振する体験をする。私はその瞬間が何よりも好きだ。その場にいられる自分が幸せだ。
Wさんはこうおっしゃる。「表札の裏に地震の起きた日付と作った日付を入れてくれないかな。一生忘れないから。」
作られるものが、人々の思いが重なる場所になったっていい。関係の編み目がその場所、そこにいる人々に着実につながっていく造形物は確実に存在する。Wさんの言葉はすべてを示していた。
15:00 ワークショップ終了。社会福祉協議会の職員さんがワークショップの最後の挨拶。涙ぐみながらお話しされる姿にこれまでのご苦労が偲ばれる。災害に遭われた当時者にしてみれば、やっと仮設住宅まで漕ぎ着けたというのが本音だろう。表札は114世帯分ほぼすべてを制作。完成していないもの、手直しが必要なもの、装飾の手がかかるものは私たちが持ち帰り完成させる。
片付けをして、次回ワークショップに必要な道具類を整理してパッケージングする。明朝には名古屋に戻っていなければならない。休んでいる余裕はなく、てきぱきと帰り支度を進める。
17:00 身支度が完了。レスキューストックヤードのスタッフの皆さんに見送られて七ヶ浜町を出発。ところどころ信号機が着いていない道を抜け、高速道路に乗る。ただ、ひた走り名古屋へ。車中なぜか布施明のCDがヘビーローテーション。あの歌唱力は神がかっていると思う。おかげで運転し続けるテンションを維持できた、ような気がする。
16日5:00 名古屋着