Nobuyuki Takahashi’s blog

制約と可能性

「病院でアートなんて、制約があって大変ね。」
と、よく言われる。
病院内の制約はわかりやすい。人が傷つき、病んでいる時に、どうしても必用なことが絶対的に、そこに横たわっている。制約があるから、あれができない、これができない、と言っていたのでは何も始まらない。そこには人がいる。そのことは頭で考えてもどうにもならない。できるだけ近づいて直視しなければ。

病棟の一見無機質な廊下。50メートルは続くその廊下の先に作品を設置するとしよう。
病室から出ることもままならない方が、ある日病室からなんとか身を乗り出すとその先50メートルほどのところにこれまで観たこともない何かが飾られているのに気付く。普段はどうということのない50メートルという距離感。しかし痛んだからだには埋めることのできない隔たりだ。しかしとっても気になる、どうしても、近づいて観てみたい。
翌日、軋むからだに少しだけ挑戦を課す。病室から一歩前へ、歩みだす。50メートルが、40メートルに。作品は昨日より少しだけその細部を魅せる。次の日には30メートル、そして20メートル…。同じ作品であっても距離の縮まりが、昨日と違った表情を垣間見せてくれる。それどころか、自身の中でいつもと違った情感が育まれているのに気付く。
小さな冒険にいざない、そこにいる人だけに味わうことができる喜び。そのような時空を創り出せるとしたら、これほどまでにアーティストのインスピレーションをくすぐるものはない。

そのために、私たちは何度も現場に赴く。そこで感じることから始める。創造力が引き出される場は意外にも制約が多く、創造性とはほど遠いとされる場所に潜んでいる。

大島の白線 かろうじて見える白線を頼りに歩く入所者がいる