Nobuyuki Takahashi’s blog

なかったところに現れる、あったところからなくなる

前例のないことに一歩踏み出すのは誰でも勇気がいるものである。アート、あるいはアートの取り組みはそれを延々と繰り返してきた。
これまでたくさんの作品を病院に展示してきたが、アーティストと病院とが膝を突き合わせ語り合っていく中で「根拠のない信頼感」が育まれなければ、前に進まない。でなければ、やったことがないからという理由に押しつぶされていく。合理的な思考で思考停止に陥る。
作品を展示すると今まで何もなかったそこに、何かが現れる。とたんに抵抗感、圧迫感を感じる人々の声が聞こえてくる。拒絶したい気持ちの声はひときわ大きく響く。しかし、通りがかる人から「あれ、何か変わった!」「いつもと違うね。」とのささやきも見逃してはならない。私はこのざわついた状態の時は「しばらく様子をみてください。」と病院側にお願いする。すべてとは言わないが、やがて時間が経つと人々の反応も落ち着いてくる。作品への感想が寄せられるようになり職員への質問があがったり、作品をめぐる会話も聞こえてくるようになる。そして、展示期間の終了ともなると、いざ作品を撤去すると、ぽっかりとあいたそのスペースに人々は「さびしい、撤去しないでほしい」「何か他に置けるものはないのか。」と喪失感を表す。
展示するための空間ではない、病院での展示では、こんなことが起きる。

旧・足助病院の取り壊し現場

新・足助病院の外来棟廊下