Nobuyuki Takahashi’s blog

大島 ビールとコーヒー

大島「あばぎ」から向こうの高松を臨む

大島「あばぎ」から向こうの高松を臨む

瀬戸内大島に行く。今回は私一人だ。発達センターちよだのワークショップ、足助の研究会とこの日はトリプルブッキング。プロジェクトルームではシンポジウム申込者の対応のためスタッフ伊東が待機してくれている。こうしてスタッフが支え合っているからこそ、私が重要な場面で外に出かけられる。感謝。
11月21日(金)7:37の新幹線で岡山まで。岡山からはマリンライナーで瀬戸内海を渡り、高松まで行く。高松に着く頃には風と雨が激しく、高松のコンビニで安物の傘を買う。
11:10発の官用船(国営)まつかぜに乗り込み、大島に向かう。うねりがあり、多少船が揺れたが、想像した以上ではなかった。
11:30大島着。青松園の管理棟に行き、事務長森さんに会いに行く。森さんの話では、なんでも2、3日前は官用船が欠航したとのこと。今日は雨も風も強かったが、船が出てくれたので助かった。事務長森さんは忙しい事務仕事の合間に入所者の皆さんに私の訪問を伝えてくださり、今日はお三方の入所者とお話ができるよう手配してくれていた。これからの出会いに心ときめく。
職員食堂に行き、串焼き定食をいただく。食べている間に雨が小降りになり、時折雲間から日がのぞく。あまりにも光がきれいなので、食後すぐに海に行き島の東側の砂浜を写真に撮りに行く。国立公園に指定されているだけに、ほとんど護岸工事の手が入っておらず、まるで時代劇の舞台のように雅で美しい。
13:00事務長森さんと自治会事務所へ。
七宝焼を趣味とするAさん、写真に没頭するBさん、陶芸では島一番のCさんにお話をうかがう。
ここではBさんを紹介したい。
初めてのごあいさつで私も緊張していたがBさんはさらに緊張されていた。ぎこちなく私からプロジェクトの活動内容や、その姿勢について話させていただいく。「大島全体が表現するプロジェクトにしたい」という意志を最初に伝えたかったし、それについての意見も率直にうかがいたかったからだ。
Bさんは現在78歳。写真は70歳を過ぎてから始めたそうだ。ワープロで文章を打ち、簡単な図柄を差し入れて、冊子を自分で編集していたBさんが、ちょっとしたきっかけでデジカメを手にした。ワープロの作業に慣れていたためかパソコンでデータを取り込むことにはさほど抵抗はなかったそうだ。Bさんはカメラを手にして一気に写真にのめり込んで行く。島の昆虫、草花、木々、青空…。なんでも撮った。ひたすら毎日朝から晩まで写真を撮り続けるBさん。ある日撮影しながらBさんは気がついたそうだ。「いのちのあるものはすべて根本が同じだ。草花は人の都合でいろいろ判断されるけれど、花、実をつけるものはすべて同じ。私は70年生きてきて今まで何を見てきたのか。」とBさんはおっしゃる。レンズを通して、Bさんは自然や世界、宇宙、そして自己と向き合うことになった。ここまで途切れがちだった会話は一気にはずむ。お話をうががいながら、Bさんの「向き合う」感覚が私の中にすっと浸透してくるのを感じた。あたたかくて大きな感じ。人生の大先輩から何かを授かる、そんな例えようのない深さー。
Bさんは朝起きるとすぐに空をみつめる。そして撮りたいという気持ちがBさんを島のどこまでも突き動かす。ハンセン病の後遺症は手足の四肢は著しく歪み末梢神経が麻痺してしまうことが知られている。手足の感覚が全く失われてしまうのだ。Bさんも例外ではない。Bさんは撮影の情熱に任せて島の山に分け入り、やぶに入り、いつの間にか感覚のない手足に怪我を負ってしまうそうだ。頻繁に怪我をしては治療に来るBさんに看護師さんたちは気が気でないという。Bさんは「怪我はね、私の勲章なんです。写真の撮影は誰も止められませんよ。」と笑う。
Bさんは続ける。「私が撮った写真が良いのか悪いのか、判断できないし、批評もできない。写真はとにかくそこにあるんですよ。撮っているその瞬間(とき)に見えたことがすべて。撮れた写真がどうのこうのというのは私にはあまり重要ではないんです。」
私は感動に包まれていた。78歳のBさんはこうも純粋にそして新鮮に、向き合い、発見しながら、ドキドキしながら毎日を過している。私の前にいるのは少年の心を持ったBさんだ。Bさんは最後におっしゃった。「大島以外のところには行かない。写真も撮らない。ここでずっと写真を撮り続けます。すべてここに撮るべきものはありますから。」
Bさんと再会を約束する。次にまた、いっぱいお話をしたいー。
この日、大島会館に金曜日の午後だけ開く、カフェに行く。いよいよカフェデビューだ。自治会長さん、副会長さんら数名の入所者の皆さんが談笑している。入ってきた私を皆さんは自然に迎えてくれる。席に着くと、職員さんが「まず一杯いかがですか。」とビールを勧めてくれる。なんと、このカフェではコーヒーとビールが一緒に出てくるのだ。他の皆さんもテーブルにはビールとコーヒー。ありがたくいただく。ーうまいっー。しばし和やかな時間が流れる。
16:00あっという間に帰る時間だ。今回、創作活動をしている入所者の皆さんのインタビューを通して、ほんの少し大島のことが近くなった気がした。そして皆さんのお話をうかがいながら、自分の過している毎日を皆さんのように丁寧に生きて行こうと思った。
「みなさん、また来ます。」