Nobuyuki Takahashi’s blog

ちよだより

「ちよだより」とは、「ヤサビのイト」編集部が毎号載せている、特集記事のこと。発達センターちよだでの取組みをレポートしている。私はこのタイトルが好きだ。
12月19日(金)発達センターちよだでのワークショップに同行。

水で溶いた絵の具

水で溶いた絵の具

13:00大学を出発13:40発達センターちよだ到着。
美しい日差しが施設内を照らしている。冬独特の白熱球色のあたたかい光。
20畳ほどの多目的室にシートを敷く。激しく絵の具が飛び散るので床面のみでなく壁面まですき間無く養生する。
今日はあらかじめ用意したタンポを道具にして和紙に描くワークショップだ。薄い和紙は折っておくと染み込みつつ下の紙に色が映る。広げて2度楽しい、というわけだ。ワークショップを実施するには7〜8割が準備である。対象とするこどもたちのことを考え、どのような材料をどのような導入で興味を持たせ、表現に発展させるか。画材の準備も八方手を尽くして実験を重ね、ベストの状態でワークショップ当日をむかえる。スタッフ井木は忙しい中、学生とミーティングを重ね、よく準備をしてくれている。施設に着いてからの段取りもさくさく進み心地よい。
15:00保護者の皆さんがこどもたちを連れてくる。こどもたちは小学校1、2年生の学齢でこの発達センターちよだを卒園し、周辺地域に住む。発達センターちよだは卒園後もデイサービスとして学齢のこどもたちを迎えて、乗馬、キャンプ、造形遊びなどを実施して、コミュニケーションを継続しているのだ。私たちはこの取組みの一部分「絵画の取組み」で造形ワークショップを月に一回行っている。
こどもたちと園庭で遊ぶ。遊びながら、こどもたちのことを感じる。今日は3人のこどもたち。全員自閉症であるが、障がいの重さ、特徴は様々だ。センターの職員さんによれば、ちよだで行なっているデイサービスの中でも造形ワークショップに参加しているこどもたちは障がいが重く、バリエーションがあるそうだ。比較的コミュニケーションがとれ、会話の成り立つ子もいれば、通常のコミュニケーションが成り立たない子もいる。こどもたちと触れ合うとわかることだが、「自閉症」であっても、こどもたちと私たちの意思疎通が全くないわけではない。そこには例えようのない、人と人の信頼感を感じるのだ。ふと手をにぎったり、体を寄せ合ったり…。そうした微細なコミュニケーションが一筋の光のように感じられる。これは発達センターちよだ、そして保護者の皆さんが愛情を持って接してきた膨大な蓄積によるものだろう。私たちにとってすばらしい体験だ。
ひとしきり遊んだ後、部屋にあがり、こどもたちとおやつをいただく。楽しく食べることも大切だが、こどもたちが新しいおやつを食べられるようになったり、「欲しい」という意思表示ができるようになったり、お片づけができるようになったり…少しずつ成長していく様子を垣間みることができる。つまり一見遊びのようでも、一般家庭に近い空気の中できちんとしつけをしていくことも含み持っている。

準備した描画道具タンポ

準備した描画道具タンポ

さて、いよいよワークショップだ。
あらかじめ絵の具を水で溶いておいたが、こどもたちの前に置くとぶちまけて一瞬に終わってしまいそうだ、とセンター職員さんからアドバイスがあり、こどもたちの手の届かないところに置いておく。
Aちゃんは色彩感覚が良く、今回の描画素材タンポを見よう見まねで使うことができる。Bくんは職員さん、やさしい美術メンバーたちと会話しながら、描画を仕立てていく。昨年から参加している子で、成長がめざましい。染み込んでいく絵の具にも反応している。Cくんは最も障がいが重い。絵の具は注意していなければ口に入れてしまう。常に激しく床をたたき、じっとしていることがない。センター職員さんによれば、強い刺激でなければ脳に伝わらないらしく、物に触れる、というより、掌が赤く腫れ上がる程に強くたたき続ける行動になるという。たしかに、Cくんの手はグローブのようで、全体があかぎれで腫れ上がっていた。

激しく段ボールをかきむしる

激しく段ボールをかきむしる

そのCくんはタンポでの描画に興味を示さなかったが、段ボールを引っ掻いたりかきむしってぼろぼろになっていく感触を楽しんでいる。絵の具は床一面に飛び散るほど激しくまき散らす。私もCくんといっしょに段ボールをかきむしってみる。なるほど、段ボールの「段」が押し寄せるような感覚を呼び覚ませる。これは気持ちいい。他のこどもたちが一段落して他の遊びに移っていくなか、Cくんは最後まで造形遊びをやめなかった。
ワークショップのあとは保護者の皆さんが迎えに来るまでひたすらこどもたちと遊ぶ。私も、センター職員さんも、やさ美メンバーも完全に童心にかえって遊ぶ。
保護者の皆さんが迎えにくる。スタッフ井木が保護者の皆さんに今日のワークショップの内容と、こどもたち一人一人の様子を伝える。このひとときも充実した時間だ。保護者の皆さんは子育てで大変苦労されていると聞く。でも、そんなそぶりは見せない。こどもたちに向けたやさしい眼差しがじわっと伝わってくる。発達センターちよだの職員さんは年に数回こどもたちのお父さんと飲むそうだ。そこで語り合い、お互いの理解を深める。職員さんは朝から晩までこどもたちのことを想っている。
17:30こどもたちと保護者の皆さんが帰る。いっしょになってワークショップに参加する事。センター職員さん、ボランティアさん、やさ美メンバー、そしてこどもたちがいっしょになって造形遊びに興じることによって、たくさんの発見がある。こどもたちの新しい反応、できなかったことが新しくできたこと。それをこどもたちが帰った後に皆で出し合う。反省点もここでしっかり話し合っておく。職員の皆さんからこどもたちを「発達」という視点で見た時の適切な接し方についてもアドバイスをいただく。私たちにとっても学ぶべきところが多いが、職員さんもワークショップを通してこどもたちの新しい面を発見する事もあるそうだ。この学び合いが次のワークショップの発想につながる。
18:30発達センターちよだの職員さん、ボランティア、やさしい美術のメンバーとで忘年会。皆さん、人柄に表裏がなく、楽しい会話。ボランティアの中には将来福祉施設で働くことを目標に参加している学生さんから社会人まで様々だ。「それぞれのテーマを生きている」人たち。
ここにも光が差していた。