コンセプト

コンセプトイメージ

やさしい美術プロジェクトとは

社会の要請を受けて

高齢化社会を迎え、人々の高次医療への関心が高まるなか、欠かすことのできない営みが繰り返される病院内の時間を「どのように過ごすのか」、病院にとって「どのような環境があるべき姿なのか」が真に問われることとなりました。こうした社会の切実な要請を受けて、『やさしい美術プロジェクト』は、患者さんとのコミュニケーション、病院が立地する地域特性を糸口に、「やすらぎの感じられる医療環境」と「文化を発信する地域の人々に開かれた病院」を創出してゆくことを目的に設立しました。

教育プログラムとして

本プロジェクトは名古屋造形大学の建学の精神「共なるいのち」を生きるを礎に、学内の有志が集り、課外活動として平成14年より活動を開始しました。プロジェクトの運営は取り組み担当教員の指導のもとに学生が自主的に運営し、美術・デザインの専門性を活かしながら実務を分担します。このことにより細分化された美術、デザイン各分野のコラボレーションが実現し、実社会の現場で必要とされる「社会性」をそなえた美術・デザインの専門家を育成しています。

やさしい美術プロジェクトの特徴

本プロジェクトの特徴は作品寄贈や一時的な展覧会にとどまらず、医療スタッフや地域住民の皆さん、患者さんとの長期的なコミュニケーションを継続している点にあります。参加メンバーである学生たちは入院患者らに接することで他者の痛みを自身の事として捉え、それぞれ強固な動機をもとに制作に取り組みます。人が「痛み」を携えて生きて行くとは、どういうことなのか。そして自分はそこで何ができるのか。現代の命題である問題意識に参加メンバーらは真正面から挑んでいます。病院での実践経験により、課題を自ら発見し解決する能力やコミュニケーション能力、マネージメント能力、プレゼンテーション能力など、次世代の美術・デザインの専門家として不可欠な能力の醸成を目指しています。
これまでに本プロジェクトは立地する地域の条件(農村部、都市部など)や、病院の特性(急性期型、療養型など)が異なる三つの病院との協働を経験しています。各病院からは一様に「地域に根ざし、文化を発信する病院」のビジョンが提示され、本プロジェクトはそうした声を受けて、地域に密接に関わる「四季」「風土」「文化」を積極的に取り入れてきました。さらに現在は病院を文化発信の核にすえて、病院周辺地域に「身近な美術・デザインのある暮らし」を提案すべく情報誌の発行に取り組んでいます。

「生命」にかかわる美術・デザイン

「医療の現場の清潔感は信頼感につながり大切であるが、暖かみに欠ける」という声が医療スタッフの各部署から聞かれました。医療と美術・デザインと いう異分野の交流と協働の意義は、「生命」との深い関わりにあります。ギャラリーや美術館と言った制度に括られてしまいがちな美術やデザインを「生命」と直接関わる「病院」に持ち込み、その機能を問う本プロジェクトは次世代の美術・デザインの可能性を開拓する大きな使命を帯びています。

やさしい美術プロジェクト 学びのかたち

確かな動機に基づく自主性を育む

病院にいる人々との長期にわたるふれあいを通して環境や場所、人々の身体的な状況や精神的な苦痛に対する想像力が自然に育まれてゆきます。それは他者を思いやる「やさしさ」の萌芽であり、参加メンバー各自の中に確固とした動機が生まれます。病院に提案し、実現する社会経験は厳しさの反面、自身の存在意義を実感できる貴重な体験となるでしょう。こうして責任感に裏打ちされた自主性が育まれてゆきます。

課題の自主的な設定と成果の有用性

本プロジェクトでは取り組み担当教員より課題設定は一切行いません。担当教員の指導のもとで病院の現場で実体験をもとに学生各々が自主的に取り組む課題を発見し、企画立案から病院へのプレゼンテーションの準備、企画の実施まですべてを自身で計画して実行します。

徹底した現場主義

病院内には多くの制約があります。それらの制約は様々な状況におかれている患者さんに配慮したものであり、直接生命に関係することがほとんどです。そうした現場の具体的な制約に対して知恵と工夫をこらす「モノづくり」の実践により、柔軟な対応力と適応力が養われます。

目的に合わせた横断的な制作をサポート

本プロジェクトの作品制作は専門分野を跨ぎ、素材の加工法が一つに収まらず幾つかにわたることも多々あります。従って制作を進めて行くには複数の工房や指導教員の連携が必須となります。分野で分断される事の多い職能教育の新しいあり方がここにあります。

役割分担に学ぶ自己のあり方

本プロジェクトは各々の作品制作のみに携わるのではなく、参加メンバーと教員が一体となり役割分担しながら運営に携わります。こうしたチームワークによる 自己意識の成長はサークル活動や就労経験においても認められるものの、病院の現場を前にした当活動のような結束力は他に類を見ません。また、美術・デザインの各分野がゆるやかに役割を担い連携する必然性は、現実の社会との関わりを築いているからこそ参加メンバーである学生にさらに強く意識されます。

経験値の異なる学生が共に学ぶ

参加メンバーである学生は専門、分野が異なり、低学年から高学年まで渾然一体となって運営しています。学生が相互に学び合うことで学生間の意識が高められ、結果、活動全体が活性化します。様々な実務、プレゼンテーションテクニック、マナーなどは経験値の高い学生が実地に対処している様子から受け継がれて行きます。

ポートフォリオ制作とプレゼンテーションの活用

「ポートフォリオ」の制作は低学年から習慣化し、常に評価の対象としています。また、参加学生は病院との研究会の場で「プレゼンテーション」の経験を積みます。さらにそれらの成果は「活動報告会」で様々な専門分野の有識者の目に触れ、プレゼンテーションの技術がさらに高められます。自身の活動の成果や実績を他者に伝わるように資料として編集し、発表する能力は就職活動等にもすぐに応用できるものと考えます。

いのちに根ざす教育・研究

名古屋造形大学が最も重要と考える「いのち」に深く根ざす教育は、病院で人々と実際に接して感じる「痛み」の共感から始まります。この深い共感こそが人々に本質的な「やさしさ」をもたらす美術・デザインの源泉となります。

今後のやさしい美術プロジェクトの活動にご期待ください。

やさしい美術プロジェクト ディレクター高橋伸行

ディレクター・高橋伸行

取組担当者

  • 高橋伸行(たかはし のぶゆき)
  • アーティスト
  • 1967年生まれ
  • 愛知県立芸術大学
  • 美術研究科大学院彫刻科修了

研究領域

  • 現代美術 アートプロデュース

現在

  • ・ 名古屋造形大学 教授
  • ・+Gallery運営メンバー
  • ・やさしい美術プロジェクトディレクター