Nobuyuki Takahashi’s blog

人間国宝級だと私は思う

9:10 まつかぜに乗船。大島に向かう。
13:00 次回のGALLERY15の企画展「大島の身体(からだ)展」取材のため義肢工作室に向かう。
職員の西尾光雄さんが笑顔で迎えてくれる。部屋の中央には作業机、ボール盤や各種工作機械が並んでいる。スチール棚には補装具のサンプルや入所者の足や手を型取った石膏型が所狭しと並ぶ。私は彫刻専門だったのでむしろこの雰囲気が懐かしく感じられる。
テーブルにはスプーンやフォークとそれを心地よく使うための自助具が並ぶ。すでにいくつかサンプルを製作していただいたようだ。
自助具の変遷は大変興味深い。以前、すべて身の回りのことは入所者自身で行ってきた。自助具のはじまりは筆をゴムひもで手にしばりつける、ごくシンプルなものだったという。
「自助具の原点は、患者さん自身が自分で身の回りのことをしたい、という意欲だ。」と西尾さんはおっしゃる。
ハンセン病はらい菌が皮膚のマクロファージ内および末梢神経細胞内を蝕む感染症である。ハンセン病の症状である神経の麻痺、感覚がないことによる外傷の積み重ねにより身体の一部が変形、萎縮、欠損する。

義肢装具士の西尾さんの仕事場

感覚がない、とはどういうことだろうか。物がぶつかっても痛くない、高温のものに触れても熱くない、物をつかむ時に必要以上に強く力を入れてしまう。骨が軋むほどの衝撃でなければ感知できないのであれば、日々の積み重ねで身体が破断、欠損してしまうことも何ら不思議ではない。
またハンセン病の後遺症、障害の状態は著しく多様なため、生活の一端を担う自助具や補装具に高度な技術と独創的なアイデアをもたらしたという。西尾さんが考案した自助具にそっくりのものが後に製品化されたということもしばしばあったそうだ。ハンセン病療養所は補装具の最先端だったのだ。加えて当時は補装具の必要性に反して予算が乏しかったことも、アイデアをうむきっかけになっている。飲料に使用された容器(セルロイド)を溶かし塗布して補強する安価な方法も編み出された。
とにかく西尾さんの仕事は機能美に満ちている。それは痛みや不自由さへの想像力が極めて鋭敏でその感覚を作業に集約する集中力の技にほかならない。一言で言えば、それは鋭敏に物事を捉え、やさしく対処するということ。「やさしい」という言葉がふわりと私の中に浮かぶ。
西尾さんは私は人間国宝級だと思う。
次回企画展は10月14日(木)から。西尾さんに協力をあおぎながら自助具や補装具を見つめ、入所者の身体に思いを巡らす展示も行う予定。乞うご期待!!