Nobuyuki Takahashi’s blog

宮城県七ヶ浜町 らせん

鼻節神社を左に見ながら山道をしばらく進んで行くと花渕灯台に着く。想像していたより大きく立派な灯台だ。同行してくれたRSYの郷古くんに「僕の10歳の誕生日プレゼントはね、灯台の絵が欲しいって親に頼んで知人に油絵を描いてもらったんだよ。」となつかしいエピソードを話す。灯台のさらに向こうにけもの道が続く。松葉で覆われた道は滑りやすいが適度な弾力が心地よい。しばらく進むと怒濤の響きが近づいてきた。海は近い。松林の隙間から荒々しい海が見え隠れする。ほどなくして松林を抜けると岩場の絶壁が現れた。瀬戸内海を見慣れた私にとって、別次元の海だ。海流が早く、海に落ちたら岩に打ち付けられるのは必至だ。足下をすくわれるような猛々しい怒濤を目の前にして、早々に退散する。三方を海に囲まれた七ヶ浜町。海の表情は同じ半島でもこれほどまでに違うのか。
鼻節神社を参拝。森のいたる所に樹木に巻き付いた蔓を見つける。折れた枝、立ち枯れた大きな幹を巻き取り放さない。中には樹木の成長が蔓の力と拮抗してめり込んでいるものもある。
螺旋。一つのキーワードが浮かぶ。渦巻く海と山の蔓は原初的な造形をもたらしている。
吉田浜には多くのヨットが停泊しているのが見えた。花渕の猛々しさとはうってかわっておだやかだ。RSYの郷古くんの話しでは小さな浜にはボランティアの清掃活動をしていないところもあるようで、その一つに立ち寄ってみる。やはり流れ着いたがれきがある。一方で流木も見つけることができた。角が丸くなった家屋の梁や柱もある。その一本を2人で車まで運ぶ。枘穴のエッジはシャープにのこっているが、角材とはいいがたいほど波に洗われて材の素性を露にしている。何か語りかけてくるようで、持ち帰ることにした。
代ヶ崎浜の周辺も津波の水が入った場所だ。火力発電所が援衝となって津波の直撃を免れたお宅もあったというが、水がとぐろを巻いた、という話しも聞く。海苔を巻く大きな円筒形の構造体を見かける。どのように使うのか皆目見当がつかないが、資料などで後に調べておきたい。わかめ漁の漁師さんが大量のロープを丁寧に巻き積み置いている。ここにも螺旋を発見。
東宮浜は工業地帯だ。工場が立ち並ぶ。この辺りは地盤沈下が激しく、雨や大潮のときは冠水するらしい。一見平静を取り戻しているように見えるが、改めて地震の理不尽なエネルギーを感ぜずにはおれない。
道中、通学途中の中学生たちを見かける。向洋中学校と七ヶ浜中学校の生徒だ。青白のジャージと黄青のジャージはよく覚えている。仮設住宅の表札を作る時、そして仮設店舗の看板を作る時も中学生らはいつも参加してくれた。生徒さんの一人に「先生、美術教えに来て!」と言われたのが印象にのこる。七ヶ浜中学校は地震によって建物が損壊し、一時向洋中学校で授業を受けている生徒もいるようだ。
歴史資料館を訪れる。資料館は残念ながら閉館間際、貝塚跡地のみ歩く。芝と桜で整備が行き届いていて、知らなければここが貝塚が多く出土していることに気づかないだろう。縄文時代、弥生時代、そして古墳時代に通じて貝塚が層を成している場所もあるそうだ。6mの縦穴を掘った調査保存のためのサンプルもあったそうだが、今は埋め戻されている。
もう一泊することに決めた。明日は歴史資料館をゆっくりと訪れたい。
きずな館に帰ると午前中に出会った漁師さんが大きな鍋に一杯のわかめと白魚を差し入れしてくれた。
わかめのしゃぶしゃぶをすることになった。湯通しした瞬間に美しいグリーンに発色する。新鮮なわかめだからこそだ。ジャガイモとわかめ、シーチキンの煮付けも食す。(つづく)

花渕灯台を見上げる

猛々しい海の表情

蔓がめり込む樹木

海苔を巻く構造体

螺旋を描くロープの集積